スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

第四部定理六六系&帰する

2023-09-19 19:13:38 | 哲学
 第四部定理六六には系Corollariumが付せられています。そちらも紹介しておきましょう。
                                   
 「理性の導きに従って我々は,より大なる未来の善の原因たるより小なる現在の悪を欲求し,またより大なる未来の悪の原因たる小なる現在の善を断念するであろう』。
 定理Propositioでは小なる善bonumと大なる善malum,大なる悪malumと小なる悪が対比されているのに対し,系の方では大なる善と小なる悪,また小なる善と大なる悪が対比されていることになります。
 このことは,第四部序言および第四部定義一第四部定義二から明らかであるといえます。というのは,僕たちが有益であると確知するcerto scimusものが善であるといわれるのであれば,もし現在の悪を受け入れることによって未来の善を手に入れることができるのであれば,この現在の悪はむしろ善といわれなければなりません。同様に,もしも善を所有することの妨げになるものが悪といわれるのであれば,現在の善を入手することによって未来による大きな悪を被らなければならないとすれば,現在の善はむしろ悪といわれなければならないからです。そして第四部定理一九にあるように,人間は善を希求し悪を忌避するような現実的本性actualis essentiaを有しているのですから,未来の善の原因causaであるような悪についてはそれは実際には善であるから希求することになりますし,未来の大なる悪の原因となるような現在の善についてはそれは実際には悪であるとみなすのでそれを忌避するあるいは断念するということになるでしょう。
 未来の善とか現在の善といわれているのは,それ自体では第四部定理八により喜びの認識cognitioで,未来の悪とか現在の悪といわれているのはそれ自体では悲しみの認識です。ですが,未来の善の原因である現在の悪は,悲しみの認識ではあっても善であり得ますし,未来の悪の原因である現在の善は,喜びの認識ではあっても悪であり得るのです。

 なぜreferreをおしなべて帰すると訳すべきなのかということについて,河井は,この動詞は,事態の原因causaなり根拠なりに遡ることを要求する表現であるからだといっています。僕はこの点に関しては河井に同意します。ただし,遡るということは,ある結果effectusの原因,その原因,さらにその原因という具合に遡及するという意味を含んでいます。僕は考察の過程で示したように,このような考え方はスピノザの哲学にとって妥当でないと考えますから,それは僕にとってはとくに重要な意味を有するわけではありません。したがって,関係するということよりも,帰するという動詞の方が,原因なり根拠なりを要求するという点が僕にとっては重要です。第二部定理三二は,平行論を前提とする定理Propositioであって,そのゆえにここには何らかの因果関係が含まれているという河井の指摘は的確なものだと僕は考えているからです。
 スピノザの哲学では,僕たちの思惟作用自体が,自然Naturaの一部とみなされるので,神の観念idea Deiなしには僕たちの認識cognitioは成立しません。これは,第一部定理一五で,神なしには何ものもあり得ずまた考えられないnihil sine Deo esse, neque concipi potestといわれていることから明白です。すなわち,神なしには何も存在できないというのと同じように,神の観念なしには一切の観念あるいは思惟作用は存在することができないのです。なので,真の観念idea veraがあるとか,僕たちが事物の真の観念を有するということは,神の観念に訴求されることによって証明されるのでなければなりません。すなわち,ある人間の精神mens humanaの本性essentiaを有する限りで神のうちにXの真の観念があるといわれるとき,その人間の精神のうちにXの真の観念があるということが保証されるのです。
 よって,第三部定理三二は,すべての観念は神に帰せられる限り真verumである,と訳された方が,神が真の観念の原因となっているということが理解しやすくなるでしょう。僕が示したこの定理の意味でいえば,僕たちの精神のうちにある誤った観念idea falsaは,神に帰せられるのであれば真の観念であるといわれれば,その観念の原因としての神に訴求されているということが理解しやすくなります。つまりこの定理の意味にさらに近づくのです。

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