スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

叡王戦&力学

2020-08-13 18:58:19 | 将棋
 10日に指された第5期叡王戦七番勝負第七局。持ち時間は6時間。
 振駒で永瀬拓矢叡王の先手となり相掛かり。早い段階から激しい戦いに突入しましたが,そんなに差は開かずに進んでいたのではないかと思えます。僕のその判断が誤りで,実際には差がついていたからなのかもしれませんが,終盤の豊島将之竜王・名人の指し手に,僕としては謎が残る一局でした。
                                        
 先手が桂馬を打った局面。この手は香車を取っての攻めをみせると同時に,後手の龍の横利きを遮断する受けの手という一面もあり,一石二鳥といえます。
 実戦はここから☖6一歩☗6四歩☖5二銀☗5四桂と進みましたが,まずこれが謎の手順。この後手の順だと5四の香車はほぼ無条件で取られます。☖5七香成は王手ですから先手が放置することはあり得ません。ですからこの手順に進んでしまうのであれば,☖6一歩か☖5二銀のどちらかのところで☖5七香成として清算するのが自然に思えます。馬が引いてくれれば後手玉への攻めが緩和されますし,玉を露出させるのも4六の桂馬が動きにくくなるのでそこまで損になっているようには思えません。香車と桂馬を同時に渡すのを嫌ったか,4六の桂馬を動かしてしまいたかったかのどちらかだと思われますが,真意を測りかねる謎の手順でした。
 ☗5四桂は金取りなので☖同歩は仕方ありません。先手は取った香車を☗6六香と打って好調です。
                                        
 第2図から☖8三銀☗8二歩成☖5五桂と進んでいますが,これも謎。こう進めるのなら第2図からすぐに☖5五桂と打ちそうなものと思えるからです。銀を打ったのは7二に駒を利かせたかったという以外に理由が思い浮かばないのですが,それだけのために銀を使って龍を作らせるのが本当に得なのかどうか分からず,ここも真意が分からない謎の手順でした。
 永瀬叡王が勝って3勝2敗2持将棋。第八局は来月6日に豊島竜王・名人の先手,持ち時間6時間で指される予定です。

 ここでもう一度,『宮廷人と異端者The Courtier and the Heretuc : Leibniz,Spinoza,and the Fate of God in the Modern World』に示されていた,スチュアートMatthew Stewartの解釈を思い出しておきましょう。スチュアートによれば,書簡四十五書簡四十六の2通が,ライプニッツGottfried Wilhelm LeibnizからシュラーGeorg Hermann Schullerに対する指示に反して遺稿集Opera Posthumaに掲載されてしまったのは,編集者たちの間で,シュラーにはそれほどの力がなかったからだとされていました。確かにフッデJohann Huddeの依頼に対する措置と比較すれば,この点はライプニッツに対する配慮を著しく欠いていたことになりますから,スチュアートのいっていることにも合理性はあります。しかし,編集者間の力学という観点からいうなら,それとは逆の結論を出すことも可能でしょう。
 少なくともスピノザがフッデに出した書簡については,3通が遺稿集に掲載されました。実はこれは,フッデの思い違いが含まれていたという可能性は残ります。すなわち,書簡というのは自分が出したものは相手の手許に残り,相手から送られた書簡は自分の手許に残ります。フッデはこのように考えたので,自分がスピノザに送った書簡さえ編集者から取り戻せば,スピノザが出した書簡のすべては自分が所有しているので,自分の書簡が遺稿集に掲載されることはないと思っていたかもしれません。実際にはスピノザは自分が出した手紙も所有していましたから,これら3通の書簡が遺稿集に掲載されたことは,フッデにとっては予想外の事態であったかもしれません。しかし編集者はフッデの意向を理解していましたから,それがだれに送られたものかは分からないようにしておいたのです。実際にこの手紙がフッデ宛のものだったということが判明したのはかなり後になってからで,1882年に出版されたスピノザ全集でも,これはホイヘンスChristiaan Huygensに宛てられたものと考えられていたくらいです。そしてさらに,遺稿集に掲載されたライプニッツの手紙の中に出ているフッデの名前も伏せられていました。
 掲載されなかったライプニッツの書簡についても,これと同じような措置を講ずることができた筈ですが,それらは掲載に至りませんでした。さらにライプニッツの名前が出ている2通の書簡も,部分的に削除するのではなく,全文の掲載が見送られています。
コメント
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