スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

書簡四十六&第三部諸感情の定義二八説明

2017-09-08 19:15:01 | 哲学
 ライプニッツGottfried Wilhelm Leibnizからの書簡四十五に対するスピノザの返信が書簡四十六で,これも遺稿集Opera Posthumaに掲載されました。
                                     
 書簡四十五は光学に関する質問でしたから,これについての解答が文面の大部分を占めています。また,ライプニッツはフッデJohann Huddeの見解も依頼していたので,スピノザはもう1冊を送ったとしています。これは書簡四十五にある「高等光学に関する覚え書」のことと思われます。フッデはスピノザに返事を送ったようですが,今は多忙でそれを検討する時間がないというものであり,その旨をスピノザがライプニッツに書き送っています。
 この書簡には追伸のようなものがあり,そちらも重要です。まず第一に,ライプニッツはディーメルブルックという弁護士を通して返書を送るように依頼していましたが,その弁護士がハーグには住んでいないため,一般の郵便集配人に託したといわれています。そしてディーメルブルックに代わる人物を紹介するようにライプニッツに依頼しています。すなわち,ライプニッツはこの文通を秘密裏に行いたかったのであり,かつこれだけでなく,継続的に文通したいと思っていたことがここから理解できます。そしてスピノザの返事からは,スピノザ自身も継続的に文通することを許諾したということが分かります。
 そして最後に,もし私の『神学・政治論Tractatus Theologico-Politicus』を所有していないのなら送りますとスピノザは書いています。『神学・政治論』は匿名で出版されていたので,もしその著者を知らない人物に対してなら,スピノザはわざわざ私のといい,それを送るとは申し出なかっただろうと僕は推測します。つまりスピノザは,ライプニッツが『神学・政治論』の著者が自分であるということを知っているということについて,何らかの確信があったのではないでしょうか。

 混乱した観念idea inadaequataを内部の原因causaとして伴っている場合の名誉gloriaを虚名vana gloriaというなら,虚名を希求する人間は必然的にnecessario高慢superbiaという感情affectusに支配されるようになるということを主旨として名誉という感情についてそれを否定的に述べているのが第三部定理三〇備考であるといえると僕は思います。と同時に,そこにはやや不思議な感じも僕は受けるのです。というのは,第三部諸感情の定義二八を読む限り,確かに名誉あるいは虚名が高慢の源泉にはなり得るとしても,高慢という感情affectusをそれ自体でみるならば,これは名誉の一種であるとは必ずしもいえず,自己満足acquiescentia in se ipsoの一種であるとみなすことが可能であるように思えるからです。自己を正当以上に評価する自己への愛amorは,必ずしも自己への賞賛があると信じている場合にだけ生じるわけではなく,むしろそれ以外の場合にも生じ得るからです。したがって高慢という感情は,名誉の一種である場合もあれば自己満足の一種であるという場合もあり得るでしょう。もっともこれは,自己満足と名誉を峻別した場合の区分です。高慢に関する定義Definitioから察する限り,名誉が自己満足の一種であり,高慢もまた自己満足の一種であって,名誉と高慢には重なり合う部分も含まれると解するのが適切であるといえます。よって,僕は第三部定理三〇備考の内容から,自己満足と名誉は別の感情であると解するべきであると考えてはいますが,仮に河井が名誉を自己満足の一種であると考えていたとしても,それが『エチカ』を理解する上で絶対的に不適切な解釈であるともいい難いということも同時に認めます。
 このうち,高慢が自己満足の一種であるということについてはスピノザ自身が是認しています。第三部諸感情の定義二八説明では次のようにいわれているからです。
 「高慢は自己愛の一結果あるいは一特質である。このゆえに高慢とは自分について正当以上に感ずるように人間を動かす限りにおける自己愛あるいは自己満足であると定義することもできる」。
 自己愛philautiaというのは何らかの感情を意味すると思われますが,定義がないので自己満足と同じ意味に解します。『エチカ』で自己愛といわれる文脈から,正当な解釈と思います。
コメント
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