浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

すごい人のすごい本だ

2012-04-18 22:50:14 | 
読みたい読みたいと思っていたけどやっと読めました。



史上最強の柔道家と呼ばれた木村政彦に関する本。

テーマは正にタイトル通り「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」

「木村の前に木村なし、木村の後に木村なし」「鬼の柔道」と呼ばれた史上最強の柔道家、木村政彦。その彼がなぜ強くなり、無敗を誇り、そしてプロレスの舞台で力道山と戦って負けたのか。そしてその敗北を悔やみ本気で力道山を殺すほど憎み常に短刀を懐に忍ばせながら、力道山を殺さなかったのか。

時代は第二次世界大戦直前から戦中、戦後にかけて。日本が最も混乱し成長した時期。

時の不運、と一言で片づけられないほどの時代の波に木村政彦が呑み込まれていく。

史上最強でありながら、誰しもが認める好漢である木村政彦を本当にいろんな勢力が巻き込んでいく。

日本柔道の覇権を取りたい講道館柔道とその他の団体、エンターテイメントの覇権を取りたいプロレス、、、

僕はまったく知らなかったんだけど戦後日本に「プロ柔道」の団体があったとのこと。決してキワモノではなく、一般紙もしっかりと報道するような真っ当な団体。しかしそれは柔道の本流である講道館から敵対視されていく。よって柔道正史においては今もなお抹消されている。

そのプロ柔道団体を立ち上げたのか木村政彦の恩師、牛島辰熊。

彼らの師弟関係がこれまたすごい。そしてそこから派生する木村政彦の練習ぶりがすごい。

なんと日に9時間、柔道の練習をしている。ウォーミングアップや筋トレ、ジョギングなんかを含んでおらず、本当に柔道の練習を9時間やっている。そして「負ければ切腹」と考え、本当に切腹の練習までしていた。

正に鬼。

全日本選手権を圧倒的に制した木村がプロ柔道に参加したのは決して金や名誉のためではなく、師牛島のため。そして牛島がプロ柔道を立ち上げたのも金や名誉のためではなく柔道と日本のため。

それらが少しずつ歯車が狂いだす。

団体の崩壊、木村の妻の病気により必要となる金。

一方、戦後日本のヒーローとして登場した力道山。木村を誰しもが「強く、人の良い男だった」と評するのと対照的に、誰一人、力道山のことをよく言わない。

その二人の邂逅。なぜ二人は戦うことになったのか。そして無敗を誇った木村が負けたのか。

その二人に横糸のように絡んでくる戦後の男たち。そこには空手の鬼・大山倍達、合気道開祖・植芝盛平、達人・塩田剛三、グレイシー柔術のエリオ・グレイシーまでいる。

現在の格闘技に続く源流がほとんど網羅されているんじゃないかと思えるくらい。

すごい本だ。

もう読みながら「なんでみんな幸せになれないんだよ…」と思ってしまう。

ただ一つ、救いがあるとすれば、あとがきに記載されている、木村の妻、牛島の妻の言葉だけなのかもしれない。



すごい本書く人だなぁと思っていたらなんと「シャトゥーン」の作家なのね。

「シャトゥーン」も超一流の寝不足本(寝る間を惜しんで読んでしまう)です。僕は日本のパニック映画としてこれを映画化すれば世界に通用するはず、と思ってます。
コメント
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