浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

「これじゃ、壊れるぜ」

2011-11-10 00:26:28 | 
先生、と言えばたとえば金八先生。

熱血漢で、生徒と真剣にぶつかって、もし悩んでいる生徒がいたらじっくり話を聞く。もし街で生徒が問題を起こしていると聞けばすぐに街に飛び出していく。


はっきり言うけど、そんな先生はいま存在しない。

もちろん「それほどの情熱のある先生がいまはいない」と言いたいんじゃない。「生徒としっかり接してる時間がある先生がいない」ということを言いたい。

そういう先生が存在しない、というよりそんな先生は存在できない。

例えばとある先生の一日。

部活のため6時半に当校。部活の監督を終え8時から校門前に立って指導。一日の授業が終わると学年毎の会議、教科毎の会議。その後、校務分掌(学校は各先生が「分掌」という組織に所属している。例えば生徒指導部、進路指導部、など)の仕事。例えば進路指導部なら模擬試験の結果に基づきどういう補習をするかという検討や補習の監督。
その後、授業の準備。「授業の三倍の時間、準備に時間を使え」と言われている。仕事が終わって(だいたい終わらないわけだけど)帰宅は終電。

つまり、情熱的に生徒を指導しよう、と思っても絶対的に時間が無い。

僕も結構タフな仕事をしてきたし、札幌にいた頃は若いこともあってかなり遅くまで仕事をしたり会社に泊まっていたりしたけどここまで大変じゃなかったんじゃないかな。

なんでこんなことになっているか、というと複合的な要因がある。

まず構造的な問題。

日本の先生たちの年齢の構造は「ワイングラス型」になっている。団塊ジュニア世代、つまり今の40歳から35歳が学校に行く年齢になった頃、子供の数が多かったのでその時代に先生がたくさん採用された。そのとき新任で入った先生たちはいま50~60歳。日本の先生にはこの世代が多い。
その後、少子化になっていくに連れて採用は減った。しかしながら50~60歳の人々がこれから定年を迎えることを予測しまた新任の採用が少し増えた。

ということで上が多くて、中(30代)が少なくて20代が多い、というワイングラスのような形に成っている。

50代の先生は体力的にもきつくなってきている。更に言うと昨今のIT化にもなかなかついていけていない。20代はまだまだ分からないことばかり。本来であれば一番多い50代が20代に知識と経験を教えていけばいいんだけど、世代が離れているのでなかなかやりづらい。
そうすると、一番働き盛りであり経験も増えた30代にすべてのしわ寄せが来る。しかもその世代は少ない。よって30代が一番忙しくなってしまう。

それから非正規職員の増加。ここまでの規制緩和で学校側が正規職員(つまり都道府県の採用試験を通った先生)ではなく1年限りの非正規職員、非常勤講師を雇用することが容易になった。規制緩和の目的は本当はそこじゃないんだけど。じゃあ正規職員では無く1年契約の非正規職員でまかなおう、となる。すると非正規職員は基本的に授業以外の業務は少ない。するとその業務のしわ寄せが正規職員に来ることになる。

つまり構造的に30代の正規職員の先生に業務が集中する状態になっている。

それから環境的要因。よく言われることだけど保護者からの要求が高くなっているので昔よりも保護者対応にデリケートにならざるを得ない。家庭でのしつけも変わりつつあるので学校で子供に教えなければいけないことが増えている。

そんなこんなでどう考えても昔より先生が大変になっている。

「大変になった」「忙しい」と言っているだけならまだいい。でも学校現場では明確に問題が発生している。

先生の自殺、うつ、早期退職、と言った問題。悲惨な話だと4月に新任で入った先生がその年の9月に自殺した、ということすら起こっている。

とある医療ミステリーで医師の激務が語られある登場人物が「これじゃ医者も壊れるぜ」と言う。

正に「これじゃ先生も壊れるぜ」という感じ。

そのドキュメントがこの本。
朝日新聞教育チーム
岩波書店
発売日:2011-10-29


僕に何が出来るわけでもないんだけど、せめて僕は「先生は大変だ」ということをしっかり認識したいと思う。

その大変さが構造的、環境的問題であるために改善はなかなか難しい。

そんな状態で自己防衛をしようと思ったら「仕事をしない」ということしかない。

実際、先生たちの中では自分を守る為に、休み時間は生徒が来ない部屋で仕事をし、授業はただ「流す」という人もいる。休み時間に生徒が来てしまうと授業の質問をされて自分の仕事が出来なくなってしまうから。
部活だってどれだけ頑張ってもよっぽどの成果を出さないと査定には関係ないわけで、部活に顔を出さなくても済んでしまう。だから部活もしない。

そんな先生を責められる人は僕は誰もいないと思う。何もしないでサボっているならともかく、やりだすとキリが無くてどんどん自分が崩壊する方向に行ってしまうんだもの。

公務員改革とか言われているし、この不況の中では公務員への風当たりは強い。もちろん僕だって何もしないように見える公務員が5時とかに帰って高いボーナスもらっているのを目にしたりすると腹が立つ。

でも少なくとも公立の先生たちはもう少しもらってもいいと思う。

そして、一番大事なことは金の問題じゃない。多くの先生たちは「金を稼ぎたいから」と先生になった人たちじゃない。むしろ「金が一番」というのなら話はもっと簡単かもしれない。でも先生たちの多くは相じゃない。多くは子供が好きで、先生という職業にあこがれて、先生になった人たち。

一番大事なことはその人たちがもっと子供と向き合える状態を作ることだと思う。