さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

何度も「終わった」はずの夢を掴んだ 大内淳雅、5度目の挑戦で遂に戴冠

2023-08-06 13:28:44 | 関西ボクシング


ということで昨日は配信三本ありました。
とても全部は追えず、というか、ABEMAは見逃し無料ではなくプレミアムだったということもあり(私が見た広告では、見逃しも無料と記載されていたように思うのですが、見間違いだったかもしれません)、住吉の方は未チェックです。
しかしU-NEXTによる、東京と神戸での「リレー中継」だけでも、かなり濃密な試合をいくつも見ることになりました。



なんといっても白眉というか、個人的にも一番心に響いたのは、大内淳雅、悲願の戴冠でした。


冨田大樹戦が中止になり、相手が冨田と分けた芝力人に変わっての日本王座決定戦。
大内、実に5度目のタイトル挑戦でした。

若さとスピードでまさり、しかし防御に不安あり、という芝は、もっと動いて左当てては離れる、という形に徹したら、大内にとっても嫌だったのでしょうが、その辺が若干甘いというか、打ち込みたい風も見える。
初回、右相打ち気味の場面あり。2回は芝の左が出るが、コーナーを背負ってしまい、大内が右クロス狙う。
芝、ロープ際から右カウンター。打ち勝つ、というより「当て勝つ」程度ではあるが、ヒットを取る。

しかし全体的に大内にとっては「勝負」が出来る流れ。
序盤はスピードで僅かに遅れた感もあったが、得意の右クロスを振るって出る。3回には4連打で攻める場面も。

しかしこの回、右瞼から出血。芝の左のパンチが強打した場面があったかどうか。ジャブが悪いかすめ方をしたか?
出血はけっこうあり、しかも場所が悪い。姫路木下コーナー、止血は頑張っていたが、あの柔らかい場所が切れると、止めきれるものでもない。
実況はルールを勘違いしていましたが、パンチによるカットなので、試合成立の4回終了を待たずして、TKO負けになる可能性もありました。

これまでも網膜剥離を煩い、ダウンした際に右足の腓骨を折り、とキャリアの要所で不運に見舞われてきた大内。
このボクサーの命運は、結局は悲運の強豪、と呼ばれたまま、ここで尽きるのか、と暗い気持ちになりました。


しかし二度のドクターチェックも乗り越え、大内は果敢に出る。
5回、芝の左フックが大内の右目に飛ぶが、大内左右アッパーから攻勢をかけ、終了間際の右で芝、動きが止まる。

この回終了の途中採点、インターバル中に読み上げられるはずが、6回開始に間に合わないハプニングあり。
しかし採点は、3対2で割れて2-1、大内リード。

出血による「絵」のイメージ、相手の主催興行であることなどを考えると、悪い想像もしていたのですが、意外に(失礼)妥当な採点が出て、大内さらに勇気づけられたか。

6回、7回と、大内ワンツーで攻勢。右アッパーも再三出て、ジャブでも打ち勝つ。
もとより、一打ずつの精度、威力では大内が上。
そして、それを比べ合う闘いになっている。芝は左右とも、単発の好打があるが、試合の流れは大内のもの。
採点でもさらにリードが拡大している、と見える。
さすがに芝も巻き返してくるだろうし、出血の不安はあるが、あと3つ、事無く収めれば勝てる、と、見ているこちらの気持ちも沸き立っていました。


続く8回、芝が気を入れ直し、リズムとスピードを出して、左ボディなどをヒット。
こちらも三度目の挑戦となる芝、タイトルマッチの舞台で、やはり大人しく引き下がるわけもない。
しかし、展開が相手の手に半ば落ちてから動き出しても遅い、これに最初から徹していれば、とも思ったところ。

大内、冷静に見て、右のヒット。こめかみのあたりに入った一発が効いたか、即座に追撃。
右が立て続けに芝の顔面を捉え、芝がダウン。何とか立ったが、大内が詰めて、レフェリーストップとなりました。



コーナーに駆け上がったあと、しばらく声ならぬ声を上げ、叫び続けていた大内の姿には、胸を打つものがありました。
この選手についてはもう長い間見てまして、拙ブログでもウェブ内検索していただければわかりますが、割と多く試合を見てきたものです。

姫路のジムでグローブを握り、さらなるチャンスを求めて東京に行き、田口良一を始め、黒田雅之や堀川謙一といった王者クラスに夢を阻まれ、姫路に戻って再起。
しかし網膜剥離でブランクを作り、移籍後初戦でKO負けを喫するなど、そのキャリアは厳しいものでした。

一度くらい、何らかのタイトルを獲っていて不思議のない力を示す試合も多く見ましたが、要所で拳四朗、矢吹正道、岩田翔吉に屈し、どうしても、後一歩、の試合に勝てない。
試合中の右足腓骨骨折に見舞われた直近の敗北は、このボクサーのキャリアも、これで完全に終わった、と...失礼ながら、駄目押しを見たような気がしていたものです。
なので、なおも再起し、タイトルマッチに出場が決まったと知ったときは、自分の想像の範囲を超えた話に戸惑った、というのが正直なところでした。


昨日の試合も、正直に言えば、明るい予見は持ち得ず、いろいろと心配、危惧、という気持ちが勝ったまま、見始めました。
しかし実際のリングで、大内淳雅の姿を通じて見えたものは、歴戦の疲弊も、数々の悲運も、何も知らぬことのように、ただ目の前の敵を打ち、求めるものをまっすぐに求めるファイターの純粋、ただそれだけでした。

単に見てきたもの、目に見えるものだけで、物事を断じられるものではない。
彼の闘う姿を見て、それは何もボクシングに限った話ではないですが、大内淳雅にそう思い知らされたように思った、そんな試合でした。
大内淳雅に脱帽します。何度も終わったはずの、断ち切られたはずの夢を、遂に掴んだ、見事な勝利でした。おめでとう!




対する芝力人にとっては、まさに痛恨の敗北でした。
しかし大内と同じく、東京のジムから地元に戻って王座を目指す彼だからこそ、この挫折を乗り越えてほしい、と期待したくなります。
もっと己の良さを生かし、弱味を隠す闘い方を考えられるならば、再起の道はきっとあると思いますので。


残りの試合についてはまた後日。
色々とえらい試合が重なりましたね。


コメント
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