恥ずかしながら、何が起こったのかわかりませんでした。
マニー・パッキャオが右で煽って左、と見えた直後、前のめりに倒れ、びくともしない。
ファン・マヌエル・マルケスが両手を挙げて歓喜のステップを踏んだのを見て、
カウンターが入ったのかと思いはしましたが、今のアクションの中に、
どんなパンチを入れる隙間があったのか?と困惑しているうちに、試合は終わっていました。
スローで見て驚愕。パッキャオの重心が浮いていたとはいえ、右の煽りを躱して、
拳いくつか程度の小さい振り幅、でも肩がしっかり入った右カウンター。
ファン・マヌエル・マルケス、39歳にして生涯最高の一打が、4度目を数える
仇敵との対戦、実に42ラウンド目にして、遂に出ました。
あれこれボクシング見てきて、スロー再生見て膝が震えたのは、今日が初めてかも知れません。
ボクシング史に残る、強烈なKOのひとつに数えられるフィニッシュシーンでした。
少なくとも、今年のリングマガジンベストKOは、これで決定でしょうね。
最後だけじゃなく、そこまでの過程もまた、ものすごい展開でした。
共にロベルト・デュランの如き、殺意に満ちた攻撃と、天賦の才能が迸る防御の競い合い。
打っては外し、打ち終わりを狙う、高度なリターンとカウンターの応酬が間断なく続く。
これぞまさしく世界の超一流、誇り高き英雄同士の闘いでした。
見終えて思ったのは、パッキャオが前戦の、消化不良の果てに喫した敗戦を、
深く反省し過ぎたのかな、ということです。
最近放送されたドキュメンタリーでも、過去の自分に回帰した闘いを見せて、
ボクシングに対する取り組み方への疑念を払拭する、というコメントをしていました。
そのせいか、最初から積極的に攻め続けていましたが、若干、その意欲に縛られすぎていて、
過去の試合で見せた柔軟性、或いは「遊び」のようなものが全く感じられませんでした。
後付けの感想ですが、倒された場面にも、その影響があったのかも知れません。
それにしても、歴史上、何度も対戦を重ねたライバル対決数あれど、過去3度の対戦において、
片方に勝ち星がないにも関わらず4度目が実現したこと自体、
今回勝者となったファン・マヌエル・マルケスの偉大さの証明だと言えます。
39歳にして、過去3度闘って勝てなかった相手に挑むことに費やした彼の労苦、
その心を支えた、自分自身が培ってきたボクシングへの誇り。
その膨大さ、崇高さの前には、どのような言葉も無意味でしょう。
...と、試合前からマルケスについては、だいたいこんなことを思っていたのですが、
その上結果が勝ちで、内容があれで、終わり方もあれですから。
私は本当に、文字通り、しばし言葉を失っていました。
恐るべし、そしてやはり偉大なり、ファン・マヌエル・マルケス。
とりあえず、こんなことくらいしか思いつきません。
衝撃的、かつ感動的な、至高の一戦でした。