さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

楽しみでもなく、悲観するでもなく

2008-10-12 23:25:08 | 辰吉丈一郎
少し前に記事が出ていましたが、
辰吉の再起戦はタイで、10月26日、
相手はノラシン・ギャットプラサンチャイ、という話です。

この話題についてはこれまでもあれこれ書いてきましたけれど、
どうやら今度こそ具体的に動いているようです。
しかし、38歳の誕生日を過ぎ、ライセンスも失効した直後に、
こういう具体性のある話が動き出す、ということ自体が
辰吉丈一郎の悲劇なのだと、改めて思わされる話です。


かつて、著名な某スポーツライターの記事にて、
辰吉が若い頃に受けていた劣悪なマネージメントが暴かれたことがあります。
デビュー直後からすでに、ボクシングの枠を越えた注目を集めていた辰吉が、
その人気に不相応な安い報酬で試合をし、試合以外のTV出演料や取材謝礼を
全額ジム側に搾取されていた、という内容でした。

もちろん、真偽の程など知り得ませんが、話半分としてもひどい話でした。
その後、辰吉が弁護士を通じてジムと交渉するようになった、という話を聞いて、
ああ、なるほどなぁ、と思ったものです。

ボクサーとジムの関係がすべからく良好なわけもないでしょうけど、
辰吉丈一郎という、あらゆる意味で普通の枠に収まらない、
特別なボクサーの悲劇性は、ここにあるのだと感じてきました。

数々の打撃戦を重ね、眼疾を患い、ブランク5年の38歳のボクサーに対し、
引退を勧めて納得させられないマネージメントの貧困。
ボクシングを通じて彼と接し、信頼関係を結ぶ人間の不在。
今回のライセンス失効を待っていたかのような再起戦への動きは、
改めてその事実を証明しているように見えます。


ノラシン・ギャットプラサンチャイの試合は直に何度も見ていますし、
TVでも見ていますが、戦績はともかく、その技量は一流のそれです。
私が見た中で言えば、本当にノラシンに勝ったボクサーは長谷川穂積だけ。
熟山竜一、池原信遂は判定に救われただけ、と見えました。
今の辰吉が、そういう相手と、敵地タイで闘って勝てる状態にあると
考えるような楽観は、おそらく誰の心中にも無いでしょう。


しかし、そういったこととは別に、この試合が行われることには、
重要な意味がある、とも思います。

デビュー8戦目での世界奪取、三度の世界奪取と王座転落の間に、
網膜剥離で引退勧告を受け、引退誓約を強いられての再起を繰り返した
「特例ボクサー」辰吉丈一郎が、その特例から解き放たれての試合。

世界戦及びそれに準ずる試合のみに与えられるという、
歪な妥協と欺瞞に満ちた条件付きのライセンスとは無関係の試合。

辰吉が「特例ボクサー」ではなくなり、普通のボクサーとして闘うことは、
辰吉が最後の最後で掴む、ひとつの勝利ではないのかと思います。


彼の持つ規格外の才能と存在感は、彼に数々の栄光と、
それに倍するほどの苦難を与え続けました。
しかしそれも、遠からず、終わることでしょう。


実現するかしないか、まだわからないこの試合ですが、
私は、楽しみにするわけでも、さりとて悲観するでもなく、
ただ10月26日という日を待っています。

コメント (3)
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