非国民通信

ノーモア・コイズミ

穴を掘って、それを埋める

2018-10-21 23:54:17 | 雇用・経済

 あらぬ方向に信念を持っている人に比べれば、支離滅裂な人の方が害がない、と言うことができるのかも知れません。後者は的を外すこともあれば、「たまたま当たる」可能性があります。一方で前者は「確実に」間違った道を選ぶものです。マイナス方向で芯がある人よりも、場当たり的な対応の人の方がまだしもマシだったりします。

 安倍晋三の経済政策もその辺で、何かと矛盾した行動も多く、正しいこともやれば間違ったこともやる、その点では信用できないとは言えますが――与党内の対抗馬や有力野党の主要メンバーの主張に耳を傾けると、明らかにまずい方向に信念を持っているのが見えてきたりします。この辺に比べれば支離滅裂な政策の方がまだしも、と言わざるを得ないのが現状でしょうか。

 安倍政権誕生から順調に景気が上向いたかと思いきや、消費税を8%へと引き上げるやリーマンショック級の急落に見舞われたのは、そう昔のことではありません。ここから安倍総理が何かを学んだのかどうか、その後は消費税増税の延期を繰り返し、野党やメディア各社から批判を浴びることも多かったわけです。しかるに今度こそ10%に引き上げると宣言し出したのが先日のこと。さて……

 安倍政権の決めたことなら何でもかんでも非難してきた政党やメディアは、この引き上げ宣言をどう評価しているのでしょうか。過去の「引き上げ延期」を批判してきた人々が手のひらを返して「良くやった」と賞賛する声も聞かない一方で、逆に引き上げを批判する声もまた、あまり聞こえてこないようにも思います。

 そもそも消費税の引き上げを決めたのは民主党政権で、安倍政権は「約束を守った」格好ですから、旧民主党系諸勢力は批判が難しいところもあるのかも知れません。消費税増税を批判すれば、それを決めた自分たちを否定することになります。旧民主党系諸勢力に自身の過ちを認める度量など望めない以上、国会での争いを期待するのは難しそうです。

 一方でメディアも大手は逆進課税推進で足並みを揃えてきた経緯がありますから、影響力の大きいところほど増税容認の傾向は強いことでしょう。しかるに新聞業界は消費税を上げつつも新聞への軽減税率適用を訴えても来ました。その念願が叶ってか新聞には軽減税率が適用される見通しですが、いかがなものでしょうか?

 確かに新聞は、今でも一定の社会的役割があります。昔から続いてきた問題でも、新聞で報道されて初めて社会に認知され自体が動き始めることは多いですし、新聞不要論を声高に唱える人が口にしている話題もネタの大元は新聞報道だったりするものです。社説や論説の類いはなくなって問題ないにせよ、新聞自体の必要性は消えません。

 しかし現状の見通しでは、軽減税率が適用されたとしても、その税率は8%です。イギリスならば軽減税率適用の食料品などは課税「0%」、フランスならば「5.5%」、ドイツですら「7%」だそうです。しかし日本は軽減税率を適用されても8%の課税予定、これで「軽減」と言われても、私はなんだか誤魔化された気がしますね。

 そりゃ10%と8%の違いはありますが、「最高税率は20%でも生活必需品は0%」と、「最高率は10%で生活必需品は8%」とでは、その「軽減」の重みも随分と異なるのではないでしょうか。たかだか2%とは舐められた話ですけれど――まぁ新聞業界的には、自分たちを特別枠に搬入させた時点で満足なのかも知れません。

 日本には消費税導入と引き替えに廃止された物品税もあれば、酒やタバコ、ガソリンのように品目によって税率を変える仕組みが根付いています。やり方次第では、モノによって税率が違う制度の運用は決して難しくないでしょう。ただ「イートイン」と「テイクアウト」で税率が変わる辺りは、日本社会の実情を鑑みて運用を決めた方が良いようにも思います。

 確かに諸外国では、「外食」はちょっとした贅沢なのかという気がします。先進国における「外食」の値段を見ると、日本人にはおいそれと払えない代物も今時は目立ちます。新興国ですら都市部の飲食店の値付けを見るに、今や日本と比べても決して安くはありません。その一方で日本は飲食店従業員の圧倒的薄給を背景に格安飲食店が居並びます。良くも悪くも日本は世界にまれに見る外食が安い国である以上、「イートイン」の扱いは少し考えた方が良いはずです。

 かつて首相であった菅直人は、「これ以上借金を積み重ねたらギリシャのように財政が破綻し、予算や税率を決める権限もすべて外国任せになる」と説いて消費税増税を訴えていました。この発言当時のギリシャの付加価値税率は21%でしたが、この消費税によって事態が好転することはなく、直後に23%へ税率を引き上げるなどの混乱を繰り返していたわけです。結果はご覧のありさま。

 消費税は消費を抑制する効果はありますが、その分だけ景気を押し下げることになります。この辺は政府閣僚も心得ているようで、増税の悪影響が出ないよう景気対策に力を入れると連呼しています。しかし増税で消費を抑制しながら、税金で景気対策を打つというのもいかがなものでしょう。穴を掘って、それを埋める、労力は伴いますが、これが何か実を結ぶのかどうか、私は大いに疑問です。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« まるで毒物扱い | トップ | 麻生太郎の賛同者は何を間違... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

雇用・経済」カテゴリの最新記事