さて自民党と立憲民主党のトップ争いが本格的に始まりました。率直に言って誰が勝っても日本社会にとってプラスにはならないと判断するほかないですが、それでも新総裁誕生で総理大臣が代替わりすれば、内閣支持率は一時的に上昇するのでしょう。政策の根本的な方向性は変わらずとも顔ぶれさえ変われば国民の期待は高まる、それが日本の失われた30年間で続いてきたことだと言えます。
ただ一つだけ肯定的に評価したかったのは石破が持ち出し、そして速やかに撤回された「金融所得への課税強化」です。悪い政策ほど断固として決行されるのとは裏腹に、たまに良い政策が出れば政財界とそれに迎合する人々のからの非難が巻き起こり、容易く撤回されてしまいますね。消費税など逆進性の強い税は撤廃し、富裕層優遇の根源になっている金融所得にメスを入れるのは格差是正のためだけではなく日本経済の発展のためにも欠かせないのですが。
こちらは所得層別にどれだけの所得税が課されているかを表したグラフで、1億円を超えるところから課税率が低下してくことが示されています。何故こうなるかというと日本は分離課税が徹底されており、給与所得などには累進課税が行われているものの金融所得は定率かつ低率であることから、給与所得が中心を占める1億円未満の階層は年収に応じて課税率が上がっていく一方、金融所得が中心になる年収1億円超の層は課税率が低下していくためです。
つまりは金融所得が多い、投資に回せる資金を多く持っている階層ほど税制面で優遇される仕組みであり、これが格差の拡大や固定化にも一役買っています。公平性の観点からも、そして格差が経済の停滞を招いていることを是正する意味でも分離課税から総合課税への移行は避けられない、金融所得への税制優遇を停止していくことは日本社会が前に進むためには絶対にやらねばならないことです。
富裕層優遇の税制によって恩恵を受けている層からは、当然ながら反発を受けることになります。石破のごとき政治家が思いつきで金融所得への課税強化を口にしたところで、それを現実にするだけの実行力は期待できません。そしてさらなる問題は、富裕層優遇税制の恩恵とは縁遠いはずの「庶民」の間からも反対の声が大きかったことでしょうか。ボロは着てても心は錦と言いますが、とかく我が国の有権者は経営者目線、為政者目線、富裕層目線でしか物事を考えられない人が多い、その弊害が強く出たわけです。
月収20万で消費も20万なら、消費税は約2万円が課されます。月収2000万で消費が200万なら、消費税は約20万円が課されます。これで富裕層の方が消費税を多く負担しているのだと主張すれば、立派なエコノミストのできあがりでしょうか。そして金融所得への課税も同様で庶民も富裕層も課される税率はNISA枠などを超えたところは同じ、だから金融所得への課税が抑えられていることは庶民にもメリットが大きいのだと、そう主張すればもう立派な経済の専門家です。
「勤労から投資へ」、それが岸田政権の大方針でした。給与所得の大幅な引き上げが望めない中、金融所得だけにフォーカスした倍増計画が大きく掲げられ、優遇枠が拡張されるなど庶民が投資に走ることを国策として奨励してきたわけです。要するに「真面目に働いても豊かになれないけれど、何とか種銭を作って投資で儲けてください」というのが政府のメッセージであり、労働よりも金融商品の転売の方に価値を置くものだと評価することが出来ます。
そもそも日本企業にしてから人件費増や設備投資を惜しみ内部留保を積み上げるばかり、異例のマイナス金利が延々と続く中で資金調達需要は乏しく、むしろ余剰資金を海外資産の購入や自社株買いに回している傾向が鮮明です。庶民がなけなしの懐から金融商品を買うようになったところで、その結果として日本企業が栄えることはありえません。個別の破綻企業はともかく全体の合計として日本企業は資金調達に困っているどころか、むしろダブつかせているのが現状なのですから。
ただ、岸田政権下の投資奨励策は日本国内株に対象を限定するものではなく、外国株を買っても適用されるものでした。結果として、アメリカの株高を日本の庶民の投資が支える一助になったとは言えるのかも知れません。宗主国への貢献、という意味では岸田は目的を果たしているとも考えられます。アメリカの世界戦略のために軍拡路線へと大きく舵を切った、日本国民がアメリカ株に投資するよう誘導した、「主人」から見れば岸田内閣は実によくやっている扱いになるのでしょう。