非国民通信

ノーモア・コイズミ

読者を不安に陥れる罪深い見出し

2011-08-20 23:22:04 | 社会

福島の子ども、半数近くが甲状腺被曝 政府調査で判明(朝日新聞)

 東京電力福島第一原子力発電所事故をめぐり、政府の原子力災害対策本部は17日、福島県の子ども約1150人を対象にした甲状腺の内部被曝(ひばく)検査で、45%で被曝が確認されていたことを明らかにした。17日、同県いわき市で開かれた説明会で発表した。すぐに医療措置が必要な値ではないと判断されているが、低い線量の被曝は不明な点も多く、長期的に見守る必要がある。

 検査は3月24~30日、いわき市と川俣町、飯舘村で0~15歳の子どもを対象に実施した。原子力安全委員会が当時、精密検査が必要だと決めた基準は甲状腺被曝線量が毎時0.20マイクロシーベルト以上。1150人のうち、条件が整い測定できた1080人は全員、0.10マイクロシーベルト以下だった。

 この日、説明会には、検査を受けた子どもの保護者ら約50人が参加した。対策本部原子力被災者生活支援チームの福島靖正医療班長は「問題となるレベルではない」と説明した。

 「福島の子ども、半数近くが甲状腺被曝」だそうです。見出しだけ読むとなにやら重大事のように思われますが、しかるに大々的に伝えているのは朝日新聞だけで他の有力紙は朝日のような騒ぎ方はしていないようです。その辺はweb公開分を流し読みした程度ですので、もしかしたら紙面の方などで大きく取り上げているところもあるのかも知れませんが、ともあれ朝日新聞に言わせれば福島の子供は半数近くが甲状腺被曝しているとのことです。ただ詳細を読むと「測定できた1080人は全員、0.10マイクロシーベルト以下」とも伝えられています。これは言うまでもなく「問題となるレベルではない」と考えるのが一般的な範囲であって(だから他の新聞でも大きく取り上げてはいない?)、にも関わらず「被曝」と見出しに掲げるのは、ちょっとばかり事態を派手に描きすぎではないでしょうか。

 基本的に新聞は嘘を吐かないものと考えていますが、その一方で情報の偏った部分だけをピックアップすることで読者に誤った印象を与えるケースが多々あるわけです(特に酷いものとして、以下リンク先の読売新聞のケース、神奈川新聞のケース、共同通信のケースを挙げます)。健康への影響が確認できるのはどの程度の放射線量からか理解があれば、今回の朝日新聞の記事を読んでも驚くことはないでしょう。しかし「0.10マイクロシーベルト」というのが、現時点でどの程度の影響が見込まれるのか、何も知らない人は見出しの「被曝」という言葉で踊らされてしまうこともあるような気がします。

 街に出れば「カロリーゼロ」とか「ノンカロリー」という触れ込みの商品が並んでいます。知っている人は知っていると思いますが、この手の食品や飲料に含まれるカロリーは「0」ではありません。何でも食品100mlあたり5カロリー未満であればカロリーゼロ、ノンカロリーと表示できるそうで、看板に偽りアリと言えばそうなのでしょうけれど、本当にカロリーが「0」でないからと言って特に問題が起こったかと言えば、もちろんそんなことはないわけです。そして「被曝」の扱いはカロリーのそれに似ているのかも知れません。政府や放医研などは「実質0」は「問題なし」として扱います。ところが市民団体ですとか自称ジャーナリストの多くは「実質0」を「0ではない」と言い張るわけです。

 ただ「0ではない」ことを問題視することには様々な弊害を伴います。言うまでもなく自動車事故で死ぬ危険性は0ではありませんが、自動車事故のリスクを0にするためには自動車を全廃しなければならなくなってしまいますし、隕石の直撃を食らって死ぬ確率ですら0ではありませんけれど、この確率を0にしようとすると頑丈な屋根の外には出られなくなってしまいます。たしかに低い線量の被曝に関してありとあらゆることが明確になっているわけではないとしても、だからといってリスクを無限に高く見積もってしまうのは好ましくないはずです。過去に影響があったと確認できた試しがないレベルの代物を避けるために採るべき対策となると、そこはバランス感覚が問われるのではないでしょうか。

 本当に被曝量を0にしたければ、それこそ放射性カリウムすら危険視しなければならなくなりかねませんし、飛行機には乗れない、温泉には入れない、総じて自然放射線量の高い西日本には足を踏み入れることすら出来ないということにもなります。そこまで徹底せずとも、「被曝」を避けるために住民の生活に過剰な制限をかけ、それが「被曝」そのものの負荷を大きく上回るようでは意味がないどころか逆効果なのです。どんなに低い線量でも被曝は被曝と考えるなら、今回の朝日新聞の報道は別に間違っていないのかも知れませんが、その「被曝」の程度を読者に勘違いさせることで過剰な対策を強いる結果になれば、まぁ罪深い報道だとは思います。

 ちょっと前は母乳からセシウムが検出された云々と大騒ぎにもなっていましたが、もう少し時代を遡れば、今度は母乳からダイオキシンが検出と、これまた大問題になっていた時期もありました。これまた昨今の放射「能」同様にパニックを巻き起こしたこともあったようです。このダイオキシンも今となっては話題になることがめっきり少なくなりましたが、別に母乳中のダイオキシンが「0」になったわけではありませんよね? もちろん一時期に比べれば減っている、検出できても特に影響のない「ほぼ0」なのでしょうけれど、しっかり検査すれば決して「0」にはならないはずです。そこでダイオキシン「0」を目指すとなると、母乳は一切ダメということになってしまう等々、これはこれで色々と弊害が出てきます。しかるに幸か不幸か「流行」が去ったのか、母乳中のダイオキシン問題は忘れられ、良い感じに落ち着いて見えるのは気のせいでしょうか。結局は放射「能」の問題も、流行の終焉と共に時間が解決してくれるのかも知れません。

 微量の化学薬品で殺菌された水と、見た目は綺麗だけど実は雑菌がウヨウヨしている「無添加」の水、我々の社会が好感を抱くのはどちらでしょう。往々にしてゼロリスクを追い求めている人ほど、何か特定のリスクを過大視するあまり、他のリスクを見落としがちです。食品添加物のリスクは見えても、腐敗した食品のリスクは見えなかったり等々。放射線の影響を懸念するのは間違ってはいないのかも知れませんが、その過大視もまたリスクを高める要因です。被曝量が「0ではない」ことは伝えるべき事実であるとしても、では0ではないがどの程度なのか、被曝の程度を正しく伝えることもまた求められます。ましてや、まだまだ社会が十分に落ち着きを取り戻しているとは言えない中、見出しに大きく「半数が被曝」と掲げられてしまうと、それは煽りに近いのではないかと……

 

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9 コメント

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Unknown (IBA)
2011-08-20 23:55:05
何回も同じこと書きますが、左翼は、子供を無菌状態で育てようという清潔思想に、反対してなかったか~? と頭の中が疑問符でいっぱいです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-08-21 01:11:20
>IBAさん

 左翼なればこそ気づいてほしい危うさがあると思うのですけれど、最近はその辺がすっかり麻痺しちゃってる感じなんですよね……
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Unknown ()
2011-08-21 12:29:50
0.10マイクロシーベルト/時を少しわかりやすく年単位に直すと0.876ミリシーベルト/年となりました。安全委員会が当時定めた基準はこの倍の1.752ミリシーベルト/年です。この数字を見ると、安全委員会の基準ですら相当に厳しく見積もってます。しかも測定できた人はその半分の0.876mSv/年以下ということで、ここに問題視すべき点が何かあるのか、そもそもこれをあえて被曝なんて形で呼ぶ必要があるのか大いに疑問ですね。まるで誰かが1円を落としたことで、その人の破産するリスクが著しく増大したかのように受け取らせかねない記事です。

「被曝」というようなあまり日常生活で聞き慣れないものが出てきたとき、それを過剰に恐れがちなのは仕方のないこととは思います。しかし、もう事故から半年近く経っているわけです。自然の放射線でどのくらいのものか、浴びた量に対してどの程度のリスクが見積もられるのか、放射性物質とはそもそも何であるか、調べる時間や機会はいくらでもあったはずです。しかし過剰に騒いでいる人達の多くが「放射能」という言葉を多用したがることから見ても、どうもそういった形跡が見られないのですよね。メディアもこんな調子では、そうなるのも当然の流れなのかもしれませんが・・・。
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最早マッチポンプ (ヘタレ一代)
2011-08-21 14:27:19
そもそも問題ない被曝量なら記事にするなよと言いたいですね。ただでさえそれが過剰なきらいがあるのに、放射線に対して恐怖している人々をさらにパニックにする様な真似は勘弁してほしいですよ。そのくせこれからの電力供給はどんな計画を立てるのかとか、騒いでいる事例とは逆の本当に高い放射線の値を示すところはどうするとかいう部分には触れないんですよね。
もうここまでくると、自分たちが勝手に思った以上のパニックを煽ってしまって起きてしまったことで、自身が糾弾されないようにパニックを意図的に引き延ばしているのではと、邪推してしまいます。
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Unknown (リンデ)
2011-08-21 22:01:09
昨今は某テレビ局の偏向放送に対して抗議デモが起こるくらいですから、放射能について不安を煽るような報道姿勢にも抗議の声が目立ってもいいと思うんですよね。
ですが、そういう流れには至っていない現状を見ると、受け手側のニーズに結構当てはまっているところはあるんじゃないでしょうか。
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打って継ぎ (ノエルザブレイヴ)
2011-08-21 22:33:22
まあ大体において「偏向」とは「自分の考える世界観から逸脱している」を意味しますからね。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-08-21 22:52:03
>毛さん

 むしろ1000人以上を検査したのに、誰1人として基準値の半分すら上回っていないわけで、内容としては安心に繋がる発表のはずなんですよね。にも関わらず、程度を無視して「被曝」と掲げてしまうことで印象は180度変わってしまう、これはメディアとしてどうなのかと思わざるを得ないところです。

>ヘタレ一代さん

 そうなんですよね、これからどうすべきか解決策を探るのではなく、ただただ事態を煽り立てるばかりなのですから救いようがありません。誰かを責める側、糾弾する側に立っていれば自分は安全なのかも知れませんが、メディアとしてはダメですよね。

>リンデさん

 その辺を思うと、ネット上の一部で盛り上がっているだけのレイシズム以上に、原発を巡る問題は根が深いと痛感させられるところです。挙国一致的なノリに、これ以上メディアが荷担することがなければいいのですが……

>ノエルザブレイヴさん

 そしてこの「世界観」の偏りが、自覚されにくくなっているところもありますね。流行の中にいると、とりわけ。
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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2011-08-22 22:36:48
サッカーの川島選手がベルギーで「フクシマ」と罵られたらしいです。正直私も腹が立ちましたがその一方で無邪気に腹を立てることが出来ない自分もいます。ベルギーの不届き者達に「貴方達の心は綺麗ですか?偏見を持ってはいませんか?」という問いを突きつけられた気がしたからです。
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Unknown (非国民通信管理人)
2011-08-22 23:10:56
>ノエルザブレイヴさん

 わたしは、清水のゴトビ監督に向けられた横断幕の一件を思い出しましたね。サッカーに不届きな観客は付き物ですが、取りあえず今回は日本の方が先を行っているところもあるように思います。
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