第三の輪:税からの続きです
最後の提言となります第四の輪は、国際関係の見直しです。日本は明治以来、徹底した脱亜入欧の路線を継続してきました。それはロシアのウクライナ侵攻が始まって一層のこと顕著になったと言えますが、そこに未来はあるのでしょうか。何より本稿の主題となります経済の面から見ると、むしろ機会を逸しているばかりであるように思われます。
昨今の急激な物価高の要因としては、燃料価格の高騰が大きいわけです。しかし対応の余地がないとは言えないでしょう。例えばインドなどはロシアから割引価格での石油輸入を急増させています。インドという国家の損得を考えれば賢い判断ですけれど、同じことを日本が出来ないはずはありません。このような世界情勢であるからこそ、ロシアから化石燃料を安く買う好機です。アメリカ陣営の意向に沿うかではなく、日本にとって利益があるかどうかで政策を決める、その権限を独立国家である日本は有しているのですから。
またウクライナとは異なり自国民の国外脱出を制限していないロシアでは、既に300万人を超える出国が確認されています。その中には国際的なビジネスから切り離され本拠地を移さざるを得なくなったIT技術者も少なくないと伝えられるところですが、これもまた日本にとっては好機ではないでしょうか。ロシア国内限定で活動する技術者であればいざ知らず、世界を相手に仕事を引き受けている技術者ともなれば、当然ながら日本のビジネスにも貢献できるところは大きいはずです。
通常であれば日本の低い賃金水準ではライバル国に勝てない、欧米の企業だけではなく中国や韓国の企業であっても、IT技術者に対しては日本企業のそれを上回る給与を提示しているのが実態です。しかし今、欧米諸国では空前のロシア排除が進められている、それは決して為政者に限ったことではなく、普通のロシア人が契約を打ち切られたり、取引から除外されている状況です。つまりは欧米というライバルが不在、平時と異なり競争相手が激減していることを意味するもので、日本にとっては割安で技術者を獲得できるまたとない好機と言えるでしょう。
世界の人口は70億を超えましたが、内40億人以上はアジアに暮らしています。一方、北米大陸とヨーロッパの住民はロシアを含めても12億人程度です。人口の増加ペースもアジアが欧米を大きく上回り、人口規模の差が今後も開いていくことは確実です。経済力に関して欧米の先行は確かであるものの、アジア諸国の経済成長率は日本を除いて非常に高く、欧米諸国との差は着実に縮まっています。現在はさておき遠くない時代にアジアが世界市場の中心になることは不可避です。
その日が訪れたとき、日本はどこにいるのでしょうか。あくまでもアメリカ第一、アメリカの世界戦略に合致するかどうかを基準にした政策を続けるのか、それとも発展するアジアの一員として存在感を残せるのか、間違いは早急に正されなければなりません。日本はアジアでは珍しい対ロシア制裁に熱を上げている国ですけれど、要するに欧米と歩調を合わせている一方でアジア地域内では孤立しているとも言えます。それは果たして日本の国益にかなうのでしょうか?
欧米諸国への厚いウクライナ支援は、白人たちの強い絆を感じさせるものでもありました。一方で、アジアやアフリカで軍事侵攻が発生した時、及びアジア人やアフリカ人が祖国を追われて庇護を求めてきた時との歴然たる扱いの差を露にするものでもあったわけです。どんなに美辞麗句を並べて事態を正当化しても、欧米諸国がウクライナ人とアジア人・アフリカ人を同列に扱っていないことは隠せませんし、そこに反省が見られない以上は今後も変わることはないと断言できます。
ならばこそ、日本はもう少しアジアの一員としての自覚を持った指針に沿って行動を改めていく必要があるのではないでしょうか。日本人は自国を西洋の一国、自分たちを(名誉)白人と考えているのかも知れません。しかし欧米諸国の目から見れば、日本人も中国人も韓国人も同じです。ウクライナが公開した感謝対象国のリストに日本の名前が挙っていなかったことは象徴的で(参考)、日本が欧米諸国から「同胞」と心の底から思われることは決してないのです。
「釣った魚に餌はやらぬ」という諺もありますけれど、今のアメリカと日本の関係そのものではないでしょうか。アメリカから見れば日本は無条件で従ってくれる都合の良い国です。この関係に満足している日本人も多いですが、現代の日本が利を得ているとは言いがたいわけです。そこは多少の駆け引きがあってしかるべきで、アメリカを含む周辺国から利益を引き出すことも必要でしょう。取り敢えずはマーシャル・プランの発動要件を満たすことを目標に、アメリカとは異なる動きの一つも見せることから始めるのが良いと思います。