非国民通信

ノーモア・コイズミ

日本人が思っているよりも事態は深刻

2014-08-22 22:03:51 | 政治・国際

ヘイトスピーチ規制へ自民、議員立法を検討(読売新聞)

 自民党は、在日韓国・朝鮮人への差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)を取り締まるための法整備を検討するプロジェクトチーム(PT)を近く設置する方針を固めた。

 7月に韓国の朴槿恵大統領と会談した舛添要一東京都知事の要請を受けた安倍首相が、高市政調会長に検討を指示していた。

 首相は、日韓首脳会談の実現に意欲を示しており、韓国側が問題視しているヘイトスピーチに対応する姿勢をアピールすることで、日韓関係の改善につなげたい考えがあるとみられる。

 主要7か国(G7)でヘイトスピーチに関する法規制がないのは米国と日本だけで、国連の自由権規約委員会も7月、日本に対策強化を求める報告書を公表した。ただ、法務省などは「憲法が保障する表現の自由に抵触しかねない」として法規制に慎重で、自民党は、欧州の法規制の状況を研究し、議員立法による新法制定の可能性を探る方針だ。

 

 ……とまぁ、こんな動きも伝えられています。報道されている国連からの報告書もそうですし、EUからも経済協定の締結に際して人権条項を設けるように求められるなど、レイシストの楽園と化した日本の現状は諸外国から少なからず懸念されるものとなっているようです。結局のところ日本を変えて行くには敗戦が必要なのか、ヘイトスピーチに対して自発的な対策が取られてきたとは言いがたい我が国ですが、結果として出てくるのはどれほどのものでしょうね。

 もっとも、表現の自由を盾にした反対側からの否定論も根強いものがあります。表現の自由を錦の御旗にヘイトスピーチが野放しにされてきた結果として今に至るだけに、そろそろ「このままではダメだ」という意識を持って欲しい気がしないでもありません。危険な伝染病も感染者がごく少数で完全に隔離されているのなら、検証の不十分な新薬を投入するリスクを冒す必要はないでしょう。しかし伝染病が猖獗を極め深刻な危機を招いているのなら、ある程度の副作用を覚悟して防疫に努める必要も出てくるところですから。

 ある程度まで似たような趣旨を持ったものとしては人権擁護法案なんてのもありましたが、これも世間の反発が強かったわけです。人権侵害に励む側からもそうですし、政府による恣意的な規制が強まることを懸念する立場からの反対の声もまた大きく、結果としてヘイトスピーチを取り締まる直接的な仕組みは何もないままです。副作用の弊害ばかりが叫ばれる日本は今やワクチン後進国、隠れた伝染病輸出国にまでなってしまったのですが、片方の害ばかりを絶対視して全体のバランスを見失うという点は、このヘイトスピーチ(規制)を巡る議論にも通底しているような印象が拭えません。

 G7でヘイトスピーチに関する法規制がないのは米国と日本だけとも伝えられています。何せ我が国はグローバリズムに背を向ける孤高のガラパゴス、海外から制度を輸入するように見せつつも日本独自のものにすり替えてしまうことはしばしばです。例えば裁判員制度、アメリカの陪審制度は有罪か無罪かを決めるものですが、日本においては量刑を決めるものだったりします。あるいはホワイトカラー・エグゼンプションやワークシェアリングも、日本では専ら残業代を踏み倒したり正社員の給与をカットしたりという思惑でしか語られていないわけで、まぁヘイトスピーチ規制も「日本版」になると諸外国のそれとは全く内実の異なるものになってしまう危惧はあります。

 ついでに言えば、今回報道で対象と名指しされているのは「在日韓国・朝鮮人への差別をあおるヘイトスピーチ」と範囲が狭いですね。例えば福島という土地、及び在住者、福島の産品に対して事実無根の危険性を吹聴し、それが敬遠、排除されるように仕向ける類の言動はヘイトスピーチに該当しないのでしょうか。こうなると、朝日新聞や東京新聞も取り締まりの対象になります。あるいは生活保護受給者に対する色々と話を盛ったネガティヴキャンペーンもどうでしょう。これなら読売新聞も取り締まれそうですが、生活保護受給者バッシングは国策的なものもあるだけにセーフかも知れません。まぁ、そういう恣意的な運用になる危険性はあります。だからといってヘイトスピーチの自由を保障し続けるのはどうなのか、時には失敗の可能性もある手術を受けたり、副作用のあり得る薬を飲み続けなければならないこともあります。片方のリスクだけを絶対視して一方のリスクへの取り組みを阻むような、そんな愚かな議論だけは御免被りたいところです。

 

在日女性、在特会を提訴=「差別表現で苦痛」-大阪地裁(時事通信)

 インターネット上の差別的表現で精神的苦痛を受けたとして、在日朝鮮人のフリーライター李信恵さん(43)が18日、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)と桜井誠会長に計550万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。

 

 ……で、あるフリーライターが桜井誠という通名――日本のメディアは実名報道に及び腰のようで――で知られるレイシストを訴えたことが伝えられています。この辺は、既存の法制度でどこまで対応できるかを問う試金石になるでしょうか。ヘイトスピーチを直接に取り締まる制度がない以上このような手法に出る必要があるわけですけれど、結果やいかに。

 しかしまぁ、「精神的苦痛を受けた」とは一種の定番ですが、とってつけたような印象を拭えないフレーズでもあります。ヘイトスピーチの差し止めを求められる専用の法規制はないですから、こうした「精神的苦痛を受けた」みたいに汎用的な文句を持ち出さないと訴訟事由としては認められないのでしょう。何だか訴訟の意味が最初から希釈されてしまうような印象がないでもありませんが、現状では他に手がないということです。

 仮に100%に近い勝ち目があったとしても、訴訟が負担の重い行為であることには変わりがありません。行動力と、経済的及び時間的なそして精神的な消耗に絶えるだけの余力が不可欠です。訴えたくても訴えられない人も多いことでしょう。加えて原告をある程度絞り込まざるを得ないですので、有象無象を相手にするのは難しい、ヘイトスピーチが蔓延しても、訴えられる相手は一部の代表者に限定されてしまい、その追従者までをも押し止められるかは甚だ疑問でもあります。

 ついでに憲法判断には踏み込まないと三権分立の法規を高らかに歌い上げる最高裁もあれば、痴漢行為を巡って被告に無罪の立証を要求するトンデモ裁判官も普通にいたりするわけです。少なくとも行政と同程度には司法も信頼できない、行政の整備するヘイトスピーチ規制と同じくらいの危うさは、裁判官の判断に委ねる場合にも覚悟せねばならないでしょう。表現の自由を唱えてヘイトスピーチの横行を対岸から眺めていられれば気楽なものですが、そうしている間にも事態は悪化を続けているところですし。

 

ヘイトスピーチ規制勧告へ=日本国憲法に抵触せず-国連差別撤廃委(時事通信)

 【ジュネーブ時事】国連の人種差別撤廃委員会の対日審査の2日目の会合が21日、ジュネーブで開かれた。日本政府への勧告書となる「最終見解」では、在日韓国・朝鮮人らに対するヘイトスピーチ(憎悪表現)の法規制導入を求める意見が盛り込まれる方向となった。

 人種差別撤廃条約の第4条は、人種差別をあおる表現を「犯罪」と明記している。日本政府は憲法が保障する「表現の自由」との整合性を考慮する必要があるとの立場で、4条適用を保留している。

 政府代表の河野章外務省総合外交政策局審議官は、「不当に言論を萎縮させる危険を冒してまで(ヘイトスピーチ)処罰法を制定する必要があるとは考えていない」と回答。外国人差別をなくす啓発活動に取り組んでいると述べ、理解を求めた。

 ただこの日も委員からは「ヘイトスピーチは暴力だ」として、規制導入が促された。勧告書作成を担当するケマル委員(パキスタン)は「(ヘイトスピーチ規制は)憲法と矛盾しない」と明言。29日に公表する勧告書に盛り込む考えを示した。

 

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コメント (6)
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