非国民通信

ノーモア・コイズミ

元・若者

2012-06-14 23:07:21 | 雇用・経済

「就職氷河期」入社組が、早期退職のターゲットにされ始めた(J-CAST)

   不況が続く中、上場企業の人員削減策が進んでいる。大企業勤めだからといって、決して安泰とはいえないと言われて久しいが、「既得権益」と揶揄されてきた層にも、いよいよメスが入り始めたようだ。
 
   ターゲットは45歳以上の、いわゆる「バブル入社」以前の中高年が中心だが、中には1993年以降に入社した「就職氷河期」入社組が対象になっている場合もある。苦労して競争に勝ち、ようやく働き口を確保した人たちが、再び苦境に立たされている。

(中略)

   一方で、より若い層をターゲットとする会社もあり、問題は複雑だ。ベスト電器とアイフルの募集対象者は、ともに「35歳~59歳の正社員」。この条件だと、新規求人倍率が0.9まで下がった1998年の入社組(36歳)も人員削減の対象になってしまう。

   就職氷河期で苦労し、さらにリストラの対象となるのだから、災難としかいいようがない。さらに人員整理の後は、若手が補充されることなく、社員ひとり当たりの仕事量はさらに増える可能性もある。退職するのも大変だが、会社に残った場合の苦労も大きそうだ。

 

 例えば「(原発が稼働する時代より)戦争中の方がまだましでしたよね」と語る瀬戸内寂聴のように、過去の記憶は忘れ去られていくものなのかも知れません。もっと近い時代の記憶だってそうです。この頃は消費税増税を巡って軽減税率が俎上に上ることもありますけれど、消費税に置き換えられる形で廃止された物品税の存在を覚えている人は、果たしてどれだけいるのでしょうか。品目によって税率を変えるというのなら、まずは「消費税導入は誤りであった、これからは物品税の時代を参考とする」くらいの反省の言が欲しいところですけれど、誰も物品税のことになど触れようとしません。もしかして物品税とは、記録上で存在するだけで実在したことのない都市伝説だったりするのでしょうか。あまりに存在が忘れられているため、自分の記憶の方が疑わしく思えてくるほどです。

 あるいは南京事件など旧日本軍の蛮行を「なかったこと」にしようとするのと同じような勢いで、東京電力の人員削減や給与カットという事実をも「なかったこと」にしようとする否定論者が満ちあふれてもいるわけです。ある種の思惑を持った人にとっては守るべきは自身の世界観であり、目の前で何が起こっていようと忘却の彼方に追いやられてしまうものなのかも知れません。そして現代日本において忘れ去られていることの代表的な一つが、景気悪化が始まって真っ先に人員整理の標的にされたのは21世紀において「既得権益」と呼ばれている中高年社員であったと言うことです。リストラという言葉が首切りという意味で普及し始めた当時は、まさに中高年社員にとっての受難の時代だったのですが、その時代の記憶は早くも風化しているように思います。そうして過去を忘れ去った人が現代の雇用情勢を語ると「『既得権益』と揶揄されてきた層にも、いよいよメスが入り始めた」みたいな頓珍漢なことになるのです。それは、一番最初にメスを入れられた層なんですけどね……

 まぁ、日本のように異常な若者優遇社会ですと、中高年に何が起ころうと世間は何とも思わないのでしょう。若ければ若いほど尊い、「子供を守れ」と喧しい人は雲霞のごとくに湧いてきますけれど、オッサンを守れ、オバハンを守れとは誰も口にしないものです。中高年以上の「痛み」なんて当の本人以外には誰も気にしませんし、記憶に止めたりもしません。その代わり、より若い世代のことを心配するわけです。結果として若い人「ばかりが」割を食ってきたかのような被害妄想にまみれた世界観ができあがると言えます。いやむしろ、中高年がリストラされた分だけ若者に椅子は回された、若者のために中高年の雇用が犠牲にされてきた側面も少なくないはずなのですが、その中高年がリストラされた記憶が綺麗に忘れ去られていると、全く異なった世界が見えてくるものなのでしょう。

 若者優遇の問題点は、若者がいつまでも若者でいられないことにあります。中高年をリストラして若者に雇用機会を提供すると言えば聞こえはいいのかも知れませんが、そうやって優先的に採用された若者もいずれは年を取って中高年になるわけです。そんなときはどうでしょうか、「元・若者」の「既得権益」を守るのか、それとも新たな「若者」の雇用機会のために「元・若者」を簡単に解雇できるようにするのが好ましいのか。とりあえず我々の社会が向かっているのは後者ですけれど、その「結果」が引用元で紹介されていたような事例に繋がっているのです。つまり「若者」の領域からは外れた氷河期世代がリストラの対象に含まれるようになった、かつて「若者」として時代の被害者扱いされていた人が、誰からも同情されない中高年の一員として若者に席を「譲らされる」側に回り始めたと言えます。

 まぁ、非正規雇用の世界では何年も前から始まっていたことでもあります。正社員から非正規雇用への置き換えが進む中で、若者の「一時的な」雇用機会は増えたと言えますが、「5号 事務用機器操作の業務」など期間制限のない「専門職」であろうとも非正規である以上は、遠からずより若い非正社員に置き換えられる日が来るものなのです。正社員よりずっとサイクルの早い非正規雇用の世界では、既に氷河期世代は正社員における中高年のようなもの、次なる世代に席を譲ることが期待される年代です。永遠に若いままならばともかく、いずれ齢を重ねていくことが避けられない以上、若者優遇のツケは誰もが払わされることになるのでしょう。氷河期世代が若者という括りから次々に外れてゆくこの先、正社員も非正規も今後は誰からも同情されなくなります。世間の関心は、専ら次の世代の若者のものですから。

 従業員が長く勤めない、中高年になる前に人がどんどん辞めてしまう、あるいはどんどん辞めさせていく、そんな会社は必然的に社員の平均年齢が若くなりがちです。辞める人が多い分だけ若い世代を採用して補うことになりますので、まさに「若者に雇用機会を提供する」という役割を果たしてもいるのですが、その手の企業はしばしば「ブラック」と呼ばれて就活生から敬遠されていたりします。むしろ就活生から人気があるのは、中高年になっても切り捨てられないであろうと期待される企業の方ですね。そして中高年になっても社員を安易に切り捨てないということは、若者ばかりを優遇しない、他の年代をも公平に扱うということを意味します。果たして若者の雇用機会を今以上に重視すべきなのか、それとも若者優遇を改めるべきなのか、世論的には前者が優勢に見える一方で、実際に就職しようとする人の行動からは後者を志向しているように見えるわけです。企業経営的には賃金の安い若者を取っ替え引っ替えしていく方が好都合のようですが、果たして社会全体としてはどうでしょう?

 

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コメント (8)
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