非国民通信

ノーモア・コイズミ

社会的な面での安全対策が足りていない

2012-06-12 23:16:03 | 社会

 原発事故以来、原発/放射線に関する諸々のデマや怪情報が飛び交ったのは記憶に新しい、というより今なお続いていることだったりするわけです(放射性物質の飛散を止める方がずっと簡単でしたね!)。事故から1年以上を過ぎてもなおデマの発信にいそしむ人を見ると、どうしてそうも不勉強でいられるのだろうと思わないでもありません。まぁ、その手の人にとっては原発という「悪」を糾弾することこそが第一であって、情報の真偽など重要なことではないのでしょう。健康被害を避けるためには正しい情報が求められますが、原発のイメージを悪化させるためなら正しさより恐怖を煽り立てることの方が大切になるようです。排外主義者が外国人の脅威を誇張したり捏造したりするのと同じようなものと言えます。

 「脱原発が第一」な人を大雑把に分けると、だいたい3パターンくらいが思い浮かびます。いの一番は「創作系」とでも言うべきでしょうか、自分の妄想の中から生まれた放射「能」の害を積極的に発信するタイプですね。海外ですとクリス・バズビーやアーニー・ガンダーセン、我らが日本では武田邦彦や早川由紀夫、それから野呂美加に木下黄太などなど、まぁ挙げていけばきりがありません。ともあれ彼らの主張は常に専門家や、そうでなくとも原発事故以降に真面目に勉強してきた人からは一蹴される、何ら根拠のない思いつきに過ぎないわけです。であるにも関わらず、それでも結構な信奉者がいるのが頭の痛いところですが。

 流石に世間の熱狂は多少なりとも収まってきたところがあって、積極的に怪情報の創作に励む上記のタイプは白眼視されることも多くなってきたように思います。それは多少なりとも前進であり正常化の一歩と言えますが、こうした怪情報創作系の論者が一時的にでも大きな影響力を持ってしまったことに我々の社会は危機意識を持つべきなのかも知れません。原発の安全対策には、デマや怪情報に踊らされて風評被害や差別を広めないための危機管理もまた必要であり、その点こそ地震や津波対策に比べて大きく立ち後れているのではないでしょうか。

 脱原発のためならウソでも構わないとばかりに、ひたすら原発や放射「能」に関するネガティヴな情報の収集に努めてきた人がいる一方で、今回の事故をきっかけに放射線に関する知識を蓄える人も増えてきた、そのために上記トンデモ系論者の言うことは速やかに論駁されることも増えてきたように思います。放射線とはどんなものか全く知られていない状態なら、とりあえず自信満々に言い切ってしまえばそれで信頼された時期もあったかも知れませんが、幸いにしてそういう状況からは抜け出せたと言えます。とにかく原発はダメ、放射能は危険と言い張ってさえいれば済む、そんな時期ではもうないのです。

 そこで慎重な人は、一目でトンデモと看過されるような迂闊なことは避けます。それでも「脱原発が第一」ですから、なんとかして国民に原発へのネガティヴなイメージを持ってもらいたい、ただし見え見えのウソは通じないし、逆に自らの信用を失いかねないと理解している人もいるのでしょう。だから、直接的なデマの発信までには手を染めない、しかし「ロンダリングされた」情報に関してはその限りではなかったりします。バズビーなり武田邦彦なりの主張をそのまま引き合いに出せばトンデモとして一蹴される可能性が高い一方で、「何となく世間に共有されている」放射線の害や恐怖もあるわけです。客観的な根拠はなくとも「何となく」悪いものとして原発なり放射線なりは存在していて、その起源を辿っていけば実は全く根拠のない憶測や誤解、曲解に行き着くものであっても、我々の社会に十分根付いてしまっているものもまた少なくないのではないでしょうか。嘘つきとして定評のある反原発論者には距離を置く風を装いつつも、そのデマゴーグ系反原発論との関連性を見せない範囲での嘘情報発信に努める人がいます。ロンダリングが済んだ範囲で「元」デマや「元」怪情報を広めようとする人の存在もまた懸念されるべきものです。

 第三のタイプは、まぁ前述のロンダリング型と重なるところが少なくないのですが、「側面支援型」とでも呼びましょうか。横行した創作系のデマ発信に対しては、今回の原発事故ならびに放射線の影響について科学的な知見から情報を発信してくれた人もいたわけです。それは健康被害などを避けるために「正しい情報」を得る上で多少なりとも役だったのではないかと思われますが、しかるに「脱原発が第一」な人たちからすれば、原発の脅威を煽る絶好の機会に水を差されたかのように写ったようで、そうした情報発信者を専ら「御用学者」「工作員」などと呼んで誹謗中傷する人もまた目立ちました。

 最初に挙げた創作型はもう流行らないですし、むしろ世間の信用を失うことを恐れて彼らから距離を置こうとする人もいます。しかし心情的には共感している、「脱原発が第一」という目的は共有している人がいるのでしょう、自らはデマ発信に直接的な関与はしなくとも、それを黙認するだけではなく、流されたデマの誤りを指摘し、正しい情報を提供してくれる人を攻撃することで、デマ発信者を間接的に支援している人もまたいるわけです。もちろん全員が全員ではありませんが、STS(科学論)系の論者や、ネット上では歴史修正主義批判系の論者に、こうした立場を取る人が目立ちますね。自らが怪情報を発信するリスクは犯さず、しかし怪情報が訂正されることを快く思わない、そういう人もまた残念ながらいるのです。かくして、差別や風評被害を広めようとする勢いはなかなか抑えがたい。原発事故への物理的な安全対策に関してはともかく、「社会的な」安全対策に関しては、まだまだ課題が多そうです。

 

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コメント (2)
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