Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

マーケティング・リサーチ温故知新

2012-12-15 10:04:12 | Weblog
朝野熙彦先生の近著は『マーケティング・リサーチ』という,極めてオーソドックスな名前がつけられている。何年か前に共分散構造分析やRの入門書を出されているが,本書では因子分析,クラスタ分析という伝統的な多変量解析から始め,コンジョイント分析へと進む。

最近,観察調査など質的なマーケティング・リサーチ手法が脚光を浴びている。朝野先生もダイレクト・リサーチという概念を提唱するなど質的手法を評価されているが,本書では長年育まれてきた定量調査+多変量解析というアプローチに依然として価値があることを主張されている。

マーケティング・リサーチ
―プロになるための7つのヒント
(KS社会科学専門書)
朝野熙彦
講談社

コンジョイント分析に次いで,多重ロジスティック回帰,コーホート分析,ベイズ推定法などが紹介される。このうちコーホート分析とは年代×年次データを「年代」「年次」「世代(コーホート)」の3要因の効果に分解する手法で,データが揃っていれば大変使いでがある。

しかしながら,これまでコーホート分析について分かりやすく指南する邦語文献はなかったと思う。本書では,まずこの手法の歴史を遡り,1つの到達点として中村隆氏が開発したアプローチを紹介し,最後にムーア・ペンローズの一般逆行列を用いた簡便法を提案している。

本書はマーケティング・リサーチの実務家を主な対象とし,コンパクトで読みやすい。ただし,それなりに数式が出てくるので,数学が苦手な読者は覚悟する必要がある。入門書として数学的原理を曖昧にする戦略もあるが,そこを妥協しないのが朝野先生の流儀である。

ぼくがマーケティング・サイエンスの世界に関わったのは,仕事上コンジョイント分析を学ぶ必要があったからで,それ以来朝野先生の著作(あるいは学会・研究会での直接のご指導)に大変お世話になってきた。今後もさらにどんな著作が上梓されるのか楽しみである。

なお,本書をご恵贈いただき感謝いたします。