Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Marketing Science Conference@Boston

2012-06-13 23:44:33 | Weblog
6月7~9日にボストンで開かれた INFORMS Marketing Science Conference に参加した。例年にも増して規模の大きい学会であったが,日本からの参加者はそう多くはなかった(欧州で開かれた場合のほうが多くなる)。会場には,中国・韓国系の若い女性研究者の姿が目だつ。

ぼくはソーシャルメディアやクチコミ関連の発表を主に聴講した。ただし,この系統でも3トラックぐらいが並行していたりして,ほんの一部しか聴くことができなかった。以下では,印象に残った発表について紹介することにしたい(アブストラクトがここから参照可能)。

Erik Brynjolfsson, Measuring the Consumer Value of Free Goods on the Internet
発表者は IT の研究で有名な MIT の経済学者。検索エンジンのように無料提供されている財は GDP に計上されない。しかし消費者は他の活動を犠牲にして時間を費やしているので経済的価値を推計できる。何のための研究かという質問に発表者が少し詰まったのが面白かった。

Dan Goldstein, The Structure of Online Diffusion Networks
Watts とともに Yahoo! から MS に移ったグループの発表。膨大なデータからリツイートのカスケードを調べたところ,感染症のように情報が広がるケースは極めて稀であることがわかった。バイラルマーケティングは本当にバイラルかを問う。ただ稀だから無視できるわけではない。

William M. Rand, Differential Adaptive Diffusion: Understanding Diversity and Learning Whom to Trust in Viral Marketing
複数の製品の普及を扱う,実データに基づくエージェントベースモデル。エージェントが相手の信頼性を学習してネットワークを再形成する設定により,データへの適合を高めている。ただし,上述の発表と同様,コンピュータサイエンス系の発表に対するフロアの反応は鈍い。

Christophe Van den Bulte, How Customer Referral Programs Convert Social Network Capital into Economic Capital
普及モデルの領域で最近最もアクティブに活動している研究者による相変わらず猛早口の発表。紹介による顧客獲得は利益が高く,離反が少ないが,その背景には homophily と social enrichment が働いていることを計量モデルを通じて示している。論文が待ち遠しい。

Curt Stenger, Merging Vector-Autoregression & Agent-Based Models for Consumer Market Simulation of Sales
発表したのは実務家の方だったが共著者は Rosanna Garcia と Koen Pauwels。ベクトル自己回帰とエージェントベースモデルを「併合」するというアイデアだが,具体的な話はあまり出なかった。実際のところ「併用」といったほうが正確かもしれない。続編に期待。

Sebastiano Delre, Testing Agent-based Models of Innovation Diffusion: the Additive Approach and the Threshold Approach
普及に関するエージェントベースモデルでは Goldenberg, Libai, Muller らのモデルと Watts-Dodds の閾値モデルが有名だが,パラメタ推定を GA や SA で行ない,データへの適合を比較している。その結果,前者のモデルのほうがパフォーマンスがよかったという。

Sarah Gelper, Talk Bursts – Word-of-Mouth Spikes and Their Role in Forecasting Box Office Sales for Movies
映画の興行収入をソーシャルメディア上の書き込み量で予測しようという最近増えてきた研究の1つだが,ここでは稀に起きるデータの突起(spike)に注目している。しかし,突起の出現はベキ分布に従っているようなので,それをどう予測するかという問題が残る。

Anita Elberse, “I Got You Babe”: Brand Alliances in Live Music
近年映画産業の研究がさかんだが,ここで取り上げられたのは音楽産業。CDの売上が低迷するなか,ライブでいかに収入をあげるかが課題になっている。発表者は HBS の先生でさすがに話は巧い。高度な計量モデルをさらりと使っている(タイトルは変更されたはず)。

Min Ding, Understanding Consumer Preference of Films from Voice Responses
グループインタビューでは対象者はしばしば本当のことをいわない。そこで,発言の信頼性を音声データの分析から判断する仕組みが提案されている。異色の発表といえるが,これが実用化されたら,最も多く使われる手法になるかもしれない。

Makoto Mizuno, Affiliate Program as Consumer-generated Advertising Media
最後は自分の発表。実際に発表したのは最後日の最終セッションの最後であった。エージェントの特徴づけは実データを用い,エージェント間の関係は人工的に構成する(ただし何らかの基準での最適化を行う)。

こうしたモデルをシミュレーションした結果,アフィリエイトブロガーが成功者を模倣するより,無作為な探索で広告を出したほうが市場全体として報酬が増えるという結果が得られた。まだまだ残された課題が多い。

この研究については,JIMS@名古屋, WCSS@台北 とツアーを続け,毎回少しずつ進化させていくつもりだ。また,モデル分析以前に,調査データに面白い結果が含まれているので,それも紹介していきたい。

ただし,他に待ち状態にあるプロジェクトがいくつもあり,そちらに帰還する必要もある。

なお,今回よかったのは,日本であまり話す機会のない旧知の先生方からいろいろ興味深い話を伺ったこと,米国で活躍する日本人の若手研究者とお話しできたこと(お二人ともバックグランドは経済学である)。でも,これではドメスティックすぎるかな・・・。

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