Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

JIMS 研究大会@電通ホール

2012-12-09 21:33:06 | Weblog
12月9日,朝から電通ホール(汐留)で開かれた日本マーケティング・サイエンス学会の第92回研究大会に参加。八島明朗先生(早大)の報告にコメントをし,自分の部会の活動報告をしたあと,澁谷覚先生(東北大)に研究報告をしていただいた。澁谷さんの JIMS デビューの瞬間だ。

澁谷さんは JIMS をアウェイと感じておられるようだが,この学会でも実験アプローチの研究は決して少数ではない。マーケティング・サイエンスで一世を風靡した(?)コンジョイント分析もまた実験といえる。行動経済学に刺激を受け,実験による研究は今後さらに増えるだろう。

午後のセッションでは,濱岡豊先生(慶應大),鶴見裕之先生(横国大)がそれぞれ Twitter データを用いた研究を報告された。データの収集や処理におけるパワーでは理工系の研究者に一日の長があるものの,いずれもマーケターらしい視点を入れた,手堅い分析であった。

坂本和子先生(京都工繊大)のデザイン嗜好の研究は,ぼくが JIMS で最も楽しみにしている発表の1つである。東アジアで行われてきた国際比較調査がフィンランド,オランダに拡大され,興味深い結果がさらに蓄積されているようだ。次回どんな結果が発表されるのか楽しみである。

旧知の研究者・実務家とお会いできるのもこの学会のうれしい点だが,しかし,だんだんそれを味わう機会が減りつつある。懇親会の参加者が大会参加者に比してかなり少ない。特に,この学会の中核を担っている中堅・シニアの方々が少ない。彼らと話したい若手には残念なのでは・・・。

発表の量や質が以前より低下しているというわけではない(多分)。しかし,少なからぬ発表者が発表だけして立ち去っている。研究大会は単なる顔見世興行でしかない。発表する人と聴講する人が以前に増して分化して互いの交流がない。こういう現象は他の学会でも見られるかもしれない。

しかし,ぼくが入会した四半世紀前の JIMS はそうでなかった気がする。もっと小規模だったが(いや,その故か)相互の交流があった。よく考えれば,あれは学会というより,ワークショップに近いものだったのではないか。この学会がこの規模のまま,当時に戻ることは難しいだろう。

JIMS は静かに衰退しつつある・・・と感じる(正確にいえば「あの頃の」JIMS と比べて,だが)。ただし,JIMS の原単位は部会にあり,どこかの部会に属して議論を戦わせようというのが元々の考え方だ。問題は,したがって,研究大会ではなく個々の部会の活動にあるのかもしれない。

部会がオープンで,研究者間の交流の場になっているのか。大会での発表権を獲得するためだけの手段になっていないか。そうした意味では,僭越ながら自分が主宰する部会は,本来の趣旨に沿った交流の場を提供しているのではないかと思う(学会員以外に開かれすぎているとしてもw)。

とはいえ同じメンバーで運営される部会はどうしてもタコツボ化する。部会よりは大きく,肥大化・ルーティン化した学会よりは小規模な,流動的で柔軟なワークショップが最適になる。SMWS は1つの試みだが,それに限らない。自分でもできることとして,ワークショップを構想しよう。

行動経済学会@青山学院大学

2012-12-09 21:31:22 | Weblog
12月8日,共同研究を行っている山田尚樹君(筑波大)の発表を聴きに,青山学院大学で開かれた行動経済学会第6回大会を訪れた。実験社会科学カンファレンスとの合同開催で,併行セッションが7つもある。老若男女,様々な分野の研究者が集まり,賑わいを見せていた。

山田君の発表終了後,マーケティング・サイエンス学会(JIMS)が開かれている汐留に移動する手もあったが,行動経済学の動向を知りたくて,そのまましばらく居残った。新会長の池田新介先生(阪大)の講演が終わる直前に,JIMS の懇親会に出るため会場を去った。

池田氏は講演で,消費者はしばしば「自滅する」選択を行うが,そうした行動は稀少な資源である「意思力」を最適配分した結果として説明できることを論じられた。いかにも経済学者らしい議論だが,会場に少なからずいたであろう心理学者たちがどう聞いたかが気になる。

自滅する選択―先延ばしで後悔しないための新しい経済学
池田新介
東洋経済新報社

竹内幹先生(一橋大学)の発表では,消費者の推論プロセスがアイトラッキングで測定され,下條信輔先生(CALTEC)の視線のカスケード現象と比較されていた。経済学と心理学が架橋されつつあるのは事実で,お互いの差異を残しつつ,刺激し合っていくとしたら素晴らしいことだ。

この学会には,星野崇宏先生(名大)が主宰するマーケティングのセッションもある。マーケティングと心理学の交流は深いが,経済学との交流は計量経済学的手法の導入に留まる。しかし,行動経済学を介してつながっていくことはあり得るシナリオで,今後の発展に大いに期待した。

ぼくが最も興味深いと思ったのは,鷲田豊明先生(上智大)による「人工社会における構造と人格」という発表だった。方向性と速度だけで表される「個性」を持つ膨大な数のエージェントが,空間上を飛び回って相互作用するというモデルだが,そこからある種の秩序が創発される。

このモデルが生み出すパタンを社会の原型と考えていいのか,どう解釈すべきかよく分からないが,非常に刺激的である。物理学者なら,この現象に合致する数理モデルを見いだすかもしれない。なお,この発表があったのは行動経済学ではなく,実験社会科学のセッションであった。