Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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すくみ足の目立つパーキンソン病患者さんに対する驚くようなリハビリ方法

2010年04月07日 | パーキンソン病
少々,忙しいことを言い訳にして投稿もご無沙汰になってしまったが,「これは書いておきたい!」というケースレポートを見つけたので久しぶりに再開した.

患者さんはオランダ人の58歳男性,特発性パーキンソン病と診断され,発症10年を経過し,歩行時にすくみ足を認める.ビデオで見る限り,極めて高度のすくみ足を認めるのだが,なんと次のビデオでは自転車をスイスイ乗りこなす場面を見ることになる.きちんとペダルを漕ぎ,そしてハンドルもうまく操って,くるっと一回りして元の場所に戻ってきた・・・いやはやとても驚いた.

なぜ自転車なら上手に乗れるのだろう.症例報告はごく短いもので,あまり考察もされていないのだが,著者らは歩行と,自転車のペダルをこぐという2つの動作では,その motor control mechanism が異なっているのだろうと言っている(よく分からない説明だが,感覚的に分からないでもない).さらに著者らは,無動が強くて,リハビリが困難な患者さんであっても,自転車のペダルをこぐような運動をリハビリに取り入れることができるかもしれないと言っている.

この記事を読み,本当だろうかと私が担当する患者さん数名にに聞いてみたが,その中にリハビリでの自転車のペダルこぎはと ても良い訓練であることを認識している人がたしかにいた.「乗り始めと降りるときは怖いが,乗ってからは問題はなく,体も動かせるし,筋肉もつくし,とても良い」のだそうだ.

この記事を読まれて,自転車こぎをリハビリに取り入れようと思われる方もいるかもしれないが,以下の点は気を付けていただきたい.まず普通の自転車ではなく,ジムとかリハビリ室にあるような固定された自転車マシーンを使うべき.また乗り降りの際には気をつけて,誰かに付き添ってもらうこと.そしてヘルメットはかぶること.ビデオの中で患者さんはヘルメットをかぶっていないのだが,かぶった方が当然安全だ.雑誌のeditorもこの患者さんがヘルメットをかぶっていないことについてわざわざ言及し,オランダでは米国と違ってヘルメット着用は義務付けられていないから着用していないと述べている.でも法律はさておき,安全対策に万全を期すことは言うまでもない.

New Eng J Med 362;e46, 2010
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9 Comments

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私の経験ですが (神経内科医)
2010-04-09 08:59:21
かなり以前ですが、何かの研究会で某先生が、パーキンソン病患者の中に歩行が困難でも自転車にはうまく乗れるひとがいることから、パーキンソン病の歩行障害は失行のようなものだろうか?とおっしゃっていまいした。
以後、注意して患者に問診してみると、歩いて外出はできないが自転車に乗ってなら買い物に行ったりできる、という人を時々見かけます。
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ありがとうございます (管理人)
2010-04-09 12:52:41
やっぱりそういう患者さんは少なからずいらっしゃるのですね.
「歩行失行」と捉え方も確かにあるかもしれません.これはGegenhaltenや保続のため,足底が接地すると,運動機能が悪化するというものだと思います.ただ,山鳥先生の「神経心理学入門」にはこれを失行とするのは不適切で,運動開始困難であるとの記載もあります.なかなか難しいですね.
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こんにちは。 (介護人ぱきぱき)
2010-04-11 18:13:12
こんにちは。(以前にも何回かコメントしたことがあります。)
私も自分のブログにこの記事にことについて書いたのですが、先生のブログも紹介したいと思います。よろしくお願いします。
マイケルJフォックスもアイススケートをしている間は症状が出ないとインタビューで言っていました。。。
ところで、「失行」という医学用語は今まで知りませんでした!これまた勉強になりました。ところで今日は世界パーキンソンデーです。
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Unknown (ぴのこ)
2010-04-15 12:28:17
どうもです。
わたしもあわてて、このブログを印刷して、理学療法士にもって見せたところ、療法士の集まりでは、何年か前から話題になっていたとのことでした。
リハビリに使えるんじゃないかと思っていたんですが…。

実際エルゴメーターの利用が上手な患者はいるようです。

灯台もと暗しなんでしょうか(苦笑)?

これからも不六更新楽しみにしています。

では( ^Θ^)/~~~

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Unknown (勤務医です。)
2010-04-17 12:08:26
調子が良ければ通院は自転車の患者さんがいます。
ペダルをこぐ動作がしやすいのは
足またぎはできるような感じに近いものではないかと持っていました。
やはり 自転車には 乗れるけれど
乗ったり降りたりが スムースに行くのかどうかが問題ではないでしょうか。
電動アシストがよいのかどうかも含めて 他の多くの患者さんでも 興味深い話題になりそうです。
乗降で安全面で問題がある場合に 何か良い方法が あれば ありがたいと思います。
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大変参考になりました。 (くま)
2012-03-15 13:07:42
父が同じ症状です。
脚の筋力も低下し、まずは少しずつでも筋力をつけないと、と考えているとき、こちらのサイトに当たりました。
無理せず、施設内の自転車こぎマシーンで初めてみたいと思います。
掲載、ありがとうございます。
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Unknown (下畑 享良)
2012-03-15 13:19:26
コメントありがとうございます.どうぞ,安全に気をつけてリハビリを行なってください.
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経験者です。 (T&K)
2013-04-09 12:08:37
通りすがりの患者です。
私は現在48歳で16年ほど前に若年性パーキンソン病と診断を受けました。3年前にはDBSの手術も受けています。
 自転車は、歩くより運動としては、簡単なのです。自転車はペダルを踏み続けるだけで良く、バランスも左右に倒れないようにするだけなのに対し、歩行はもっと複雑で地面から足をあげつつ反対の足で身体を前に移動させなければならない、しかも上体で身体のバランスを前後左右方向にとらなければならないからです。ですから私も自転車に乗っているときと歩いているときでは、別人だといわれました。
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ありがとうございました (下畑 享良)
2013-04-09 12:29:22
体験談をお教え頂き,どうもありがとうございました.
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