Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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高血糖による脳梗塞増悪のメカニズム

2007年07月21日 | 脳血管障害
 アメリカの脳卒中センターで脳梗塞後の管理について勉強をさせていただいたことがあるが,体温と血糖のコントロールをかなり厳重に行っていた.高体温と高血糖は脳梗塞サイズの増大をもたらすことは既に知られたことではあるが,徹底したコントロールが予後の改善に重要だという考え方が浸透しているのだろう.今回,高血糖がどのようなメカニズムで脳梗塞に悪影響を及ぼすのかについて動物モデルを用いて研究した結果が報告されている.論文の目的を簡潔に言うと,血糖値が正常と高値の2群のラットにおいて,虚血再灌流後に生じる血液脳関門(BBB)破綻に違いがあるか,あるとしたらBBB破綻に関与すると言われている活性酸素種(ROS)産生やmatrix metalloproteinase(マトリックス分解酵素;MMP)活性化に相違があるかどうかという検討である.  

 方法は局所脳虚血モデルで,ラット中大脳閉塞モデル(Suture model)を用いている.閉塞時間は60分で,その後再灌流させる.1. 正常血糖Wild type群,2. 高血糖Wild type群 3. 高血糖SOD1 トランスジェニック(Tg)ラット群の3群を用いている(Tgラットはラットはwild typeの4~6倍の SOD1を発現する).高血糖はstreptozocin腹腔内投与で引き起こす.正常血糖群は100 mg/dl台だが,高血糖群は400 mg/dl台である.

 結果としては再灌流後24時間で,高血糖群は正常群と比較し,神経学的に重症で,脳梗塞体積,浮腫体積とも有意に大きい.またEvans blue静注にてBBB破綻を評価すると高血糖群で有意に高度である.また高血糖群では蛋白カルボニル化(酸化ストレスマーカー)が有意に増加し,HEt (oxidized hydroethidine)にて検出したsuperoxide anionも有意に増加していた(つまりROS産生が高度ということ).しかしながら高血糖群で,SOD1,SOD2 の発現量の増加はなく,またSOD 活性の増加も見られなかった

 一方,24時間においてMMP-9活性が有意に増加していた.またHetとの二重染色にて,MMP活性と酸化ストレス部位は血管や細胞において一致していた.このMMP-9活性やBBB破綻はTgラットで有意に抑制されていた.つまりSOD1過剰発現は高血糖によりもたらされるMMP-9活性,それに引き続くBBB破綻を抑制した.

 以上より,虚血再灌流障害はROS産生をもたらし,引き続きMMP-9が活性化され,さらにこのMMP-9は血管内皮細胞障害を介して,BBB破綻,炎症細胞の流入や浮腫の増強をきたし,脳梗塞を増悪させるというカスケードがあることが分かった.つまりROS産生に引き続くMMP-9の活性化がキーポイントで,高血糖は(機序不明ながら)MMP-9活性を増悪させることが,高血糖による脳梗塞増悪の機序のひとつであると考えられた.よって高血糖による神経障害の増強は抗酸化剤で改善しうる可能性があるわけだが,何といっても梗塞後の高血糖を是正することのほうが重要なのだろう(このような臨床にfeedbackできる基礎研究の論文というものは読んでいても得した気分になる;from bench to bedsideですな).

Stroke 38; 1044-1049, 2007 
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