Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(3月5日)  

2022年03月05日 | 医学と医療
今回のキーワードは,ファイザーワクチン・ブースター接種のオミクロン株症候性感染に対する予防効果は時間とともに弱くなる,COVID-19に関連した神経症候群のニューロフィラメント軽鎖の上昇は髄液と血液で相関しない,英国では医療者のバーンアウトとlong COVIDが蔓延しており,労働生活に影響を及ぼしている,です.

前回,mRNAワクチンによる細胞性免疫を介する防御機構の論文を紹介しました.オミクロン株に対しても維持されているものの,一部の個体では低下していることが示されました.このためオミクロン株に対する次世代ワクチンの開発が必要だと議論されていました.今回の最初の論文は,ワクチンのさまざまな組み合わせによる症候性感染(症状を認める感染)への抑制効果を調べていますが,デルタ株と比べてオミクロン株に対してはその効果が低く,ブースター接種も効果はあるものの10週間も経つと時間とともに低下してしまうことが示されました.重症化に対する抑制効果はおそらく認められるだろうと議論されていますので,ブースター接種はきちんと行うべきですが,やはりより強力な次世代ワクチンの開発が望まれます.最近,私たちはオミクロン株感染による脳症患者を経験し病態を検討しました(投稿中).また神経難病患者さんの感染,重症化も経験しました.オミクロン株を軽視せず,しっかり予防を心がけることが大切だと思います.

◆ファイザーワクチン・ブースター接種のオミクロン株症候性感染に対する予防効果は時間とともに弱くなる.
ワクチン接種を受けた集団におけるオミクロン株感染者の急増は,現行のワクチンの限界を示唆する.英国からオミクロン株およびデルタ株に対するワクチン効果の症候性感染の抑制効果を検討した研究が報告された.最初の2回接種をアストラゼネカ,ファイザー,モデルナを使用し,ブースター接種をさまざまな組み合わせで行ったときの効果を調べている.まずどのような組み合わせでも,ワクチン効果はデルタ株感染と比べ,オミクロン株感染に対して弱かった.日本で行われているファイザー,モデルナワクチンの結果を示す.ファイザーワクチンでは2回接種後の2~4週目で65.5%,25週以上では8.8%まで低下してしまう(図1).



しかしブースター接種後2~4週間で67.2%まで上昇するが,10週間以上たつと45.7%まで低下していた.一方,モデルナワクチンでブースター接種すると,2~4 週間で73.9%まで上昇し,5~9 週間のワクチン効果は 64.4%であった.またモデルナワクチンも同様の結果であった(図2).



ブースター接種も有効であるが,2~4週間までのデータしかなく持続期間は不明である.以上よりファイザー,モデルナ,いずれのワクチンも2回接種だけではオミクロン株による症候性感染に対する予防効果は経時的に低下する.ブースター接種は有効で,デルタ株では10週以上予防効果が持続するものの,オミクロン株に対しては時間経過とともに減弱してしまうことを示された.
New Engl J Med. March 2, 2022(doi.org/10.1056/NEJMoa2119451)

◆COVID-19に関連した神経症候群のニューロフィラメント軽鎖の上昇は髄液と血液で相関しない.
英国からCOVID-19に関連した神経症候群を呈した患者において,神経軸索損傷のマーカーであるニューロフィラメント軽鎖(NfL)を血清,髄液を用いて検討した研究が報告された.COVID-19患者94名と非神経学的対照群24名を比較した.結果として,脳炎,急性散在性脳脊髄炎患者の髄液NfL濃度が14800 pg/mlと上昇した.なお脳症では1410 pg/ml,ギラン・バレー症候群では740 pg/ml,対照では872 pg/mlであった(図3).血清NfLレベルは,神経症状とは無関係に,COVID-19で入院した患者全体で上昇していた.髄液と血清NfLの間には通常,相関はなかったが,非神経学的患者における血清NfLの上昇は,critical illness neuropathyの存在を反映している可能性が示唆された.一方,アストロサイト活性化のマーカーであるGlial fibrillary acidic protein(GFAP)は,いずれの群の髄液および血清で上昇しておらず,アストロサイト活性化はCOVID-19における神経細胞障害の主要なメディエーターではないものと考えられた.
Brain Commun. 2021 May 12;3(3):fcab099.(doi.org/10.1093/braincomms/fcab099)
→ twitterで紹介されていたので新しい論文かと思いましたが,昨年のものでした(失礼しました).



◆英国では医療者のバーンアウトとlong COVIDが蔓延しており,労働生活に影響を及ぼしている.
英国の腎臓内科関連労働者を対象に全国調査を実施し,パンデミックの労働生活への影響を検討した.2021年3月から5月にかけて,Maslach Burnout Inventoryスコアを組み込んだオンラインアンケートを行った.合計423名が回答した.うち29%がCOVID-19に感染していた.合計57%がバーンアウトを示し,とくに若い回答者とlong COVIDの人に多かった(オッズ比それぞれ1.92,10.31!).フルタイムで働く人の多くが,早期退職を希望していた.59%がリモートワークを経験し,今後も継続する意向が多数派であった.以上より,バーンアウトとlong COVIDが蔓延しており,労働生活に影響を及ぼしている.労働力減少を防ぐために制度的な介入が必要である.→ long COVIDは医療者のバーンアウトの重大な危険因子である.
Clin Kidney J. 2021 Dec 13;15(3):517-526.(doi.org/10.1093/ckj/sfab264)


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