Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(12月11日)  

2021年12月11日 | 医学と医療
今回のキーワードは,米国におけるオミクロン株感染者の特徴,ブースター接種はデルタ株感染による死亡率を大幅に低下させる,ブースター接種はデルタ株感染による重症化率を大幅に低下させる,COVID-19感染小児例における精神・神経症状も自己免疫性の場合がある,です.

2回目のワクチン接種から8ヶ月経過したため,昨日,ブースター接種を受けました.過去2回よりやや腕の痛みやだるさが強いですが,今週のNew Engl J Med誌の2つの論文を読むと,やはりブースター接種はしたほうが安心だと思いました.今回紹介する2番目,3番目の論文になります.ぜひエビデンスをご確認ください.また米国のオミクロン株感染者43名の臨床像がWHOにより報告されています.最初の論文です.

◆米国におけるオミクロン株感染者の特徴.
2021年11月24日にWHOに初めて報告されたオミクロン株は,12月1日から8日の間に,米国の22州から報告されるに至った.初回の追跡調査を行った43名のうち25名(58%)は18~39歳であった. 14名(33%)が,症状の発現または検査結果の陽性化に先立つ14日間に海外旅行をしていた.感染の原因は海外・国内旅行,大規模な公共イベント,家庭内感染であった.うち34 名(79%)は症状出現または検査陽性となる 14 日以上前にワクチン接種を完了し,うち 14 名はブースター接種受けていた(ただし5 名はブースター後14 日以上経過していなかった).6名(14%)はCOVID-19の感染歴があった.多い初発症状は,咳(33名),疲労(24名),鼻水・鼻閉(22名),発熱(14名),悪心・嘔吐(8名),息切れ・呼吸困難(6名),下痢(4名),味覚・嗅覚喪失(3名)であった.ワクチン接種済みの1名が2日間入院したが,これまでに死亡例は報告されていない.
Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) December 10, 2021. (https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/mm7050e1.htm)

◆ブースター接種はデルタ株感染による死亡率を大幅に低下させる.
イスラエルでは,デルタ株の出現とファイザーワクチンの経時的な効果の低下により,早期にワクチンを接種した集団での感染が再燃した.イスラエル保健省は,この再燃に対処するために,2021年7月30日に3回目のブースター接種を承認した.ブースター接種がCOVID-19による死亡率を低下させるかの検証が報告された.対象は50歳以上で,少なくとも5カ月前に2回の接種を受けたClalit Health Servicesの会員84万3208人とした.うち75万8118人(90%)が54日間の試験期間中にブースター接種を受けた.COVID-19による死亡は,ブースター群では65人(10万人当たり0.16人/日),非ブースター群では137人(10万人当たり2.98人/日)であった.COVID-19による死亡の調整後ハザード比は,ブースター群では非ブースター群と比較して0.10(95%信頼区間,0.07~0.14;P<0.001)であった.以上より,ファイザーワクチンの2回目接種から少なくとも5ヵ月後にブースター接種を受けた人は,ブースターを受けなかった人に比べてCOVID-19による死亡率が90%低かった.
New Engl J Med. Dec 8, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2115624)



◆ブースター接種はデルタ株感染による重症化率を大幅に低下させる.
60歳以上の人にファイザーワクチンのブースター接種を投与したところ,初期の結果が良好であったため,イスラエルでのブースター接種キャンペーンは,少なくとも5カ月前に2回目の接種を受けた若い年齢層の人にも徐々に拡大された.今回,イスラエルにおける重症患者の発生率に対するブースター接種の効果を検証した研究が報告された.対象はイスラエル保健省のデータベースから,2021年7月30日から10月10日までの期間に,5カ月以上前に2回目の接種を受けた16歳以上の469万6865人とした.主要解析では,少なくとも12日前にブースター接種を受けた人(ブースター群)と,受けていない人(非ブースター群)の重症化および死亡の割合を比較した.また,副次的な解析として,ブースター群と3~7日前にブースターを受けた人(ブースター後早期群)の比較を行った.結果は,感染が確認された割合は,ブースター群では非ブースター群に比べて約10倍低く,5つの年齢グループに分けても9.0~17.2倍低かった(図2).またブースター群はブースター後早期群に比べて4.9~10.8倍低かった.主要解析および副次解析における重症化率は,ブースター群では,60歳以上ではそれぞれ17.9倍,6.5倍,40~59歳ではそれぞれ21.7倍,3.7倍と低下した(図2). 60歳以上の高齢者では,死亡率が主要解析では14.7倍,副次解析では4.9倍と低下した.以上より,重症患者の発生率は,調査した年齢層全体で,ブースター接種を受けた人は受けなかった人に比べて大幅に低くなる.
New Engl J Med. Dec 8, 2021.(doi.org/10.1056/NEJMoa2115926)



◆COVID-19感染小児例における精神・神経症状も自己免疫性の場合がある.
COVID-19の小児における感染で精神・神経症状が出現することがある.これらの患者の脳脊髄液中に抗SARS-CoV-2抗体および自己抗体が存在するかを検討した研究が米国UCSFから報告された.対象はCOVID-19感染が確認され入院し,神経学的診察を依頼された10代の患者3名である.3名は重度の不安から妄想性精神病といった亜急性神経・精神症状を呈した.ちなみにこの期間に入院した感染小児は合計18名であった.対象となった3名のうち,2名に髄液抗SARS-CoV-2抗体が認められた.この2名の患者の髄液中のIgGは,免疫染色を行うと抗神経抗体陽性であった.また免疫療法に良好な反応を示した1名の患者では,統合失調症を含む精神疾患でリスク遺伝子として報告されているtranscription factor 4(TCF4)を標的とする自己抗体が,cell based assayにて確認された(図3).COVID-19感染後,亜急性に神経精神症状を呈する小児では,髄液中に抗SARS-CoV-2抗体と抗神経抗体を有し,免疫療法に反応する可能性がある.
JAMA Neurol. 2021;78(12):1503-1509.(doi.org/10.1001/jamaneurol.2021.3821)






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