「お医者様はいらっしゃいますか?しかも神経内科の・・・」と飛行機の中でアナウンスされたら名乗りべるべきか少し逡巡する.どんな病気をみることになるかよく分からないし,そして飛行機の中で対処できるのだろうかと不安になるためだ.
そんな疑問に答える論文がスペインから報告されている.スペインのMadridBarajas国際空港から大学病院(3次救急)の神経内科にコンサルトがあった症例について,21ヶ月間に渡る前向き研究である.対象は77名で,うち59名(76.6%)が男性.平均45.9歳(8-89歳).
さて発症のタイミングは着陸後44名(58.7%),飛行中31名(41.3%),不明2名(5.1%).問題の疾患については,39名がてんかん発作(50.9%),18名が脳卒中(23.4%),そして20名(26%)がその他の診断であった.その他は,多いものから,薬剤中毒(コカイン,睡眠薬,カルバマゼピン,メトフォルミン),非器質的疾患,失神,末梢神経麻痺(撓骨・顔面神経麻痺),認知症患者のせん妄,脳炎,片頭痛,一過性全健忘であった.
1位のてんかん発作を来した患者のうち25名(61%)にはてんかんの既往歴はなかったものの,飲酒との強い関連がった.興味深い症例として,コカイン密売人の3名が挙げられる.この3名はコカインの体内隠匿者であった.つまり密輸のためコカインの入った小さな包みを飲み込み,何らかの具合で腹部内にあった包みが破裂し,引き続いててんかん発作が生じたのだそうだ.その他,症候性てんかんの原因としては,脳梗塞,動静脈奇形,肺塞栓症がみとめられた.てんかんの既往があって,発作を来した患者の大半は,抗てんかん薬をきちんと内服していなかった.
2位の脳卒中の内訳は,脳梗塞,脳出血が8名ずつで,TIAが2名.8名の脳梗塞のメカニズムとしては5名で高度(90%以上)の内頸動脈狭窄を認めた.1名はエコノミークラス症候群であった.6名はtPAの適応があり,血栓溶解療法を受けた.
以上より,飛行機の上で神経内科医が呼ばれそうな病気は,アルコールや薬剤に関連したてんかんと,大径血管の動脈硬化に伴う脳梗塞ということになる.
あとこの論文には飛行機における治療のアルゴリズムや,飛行機に積むべきオススメの医薬キットも記載されている.ちなみに医薬キットはこんなもの.
挿管チューブ,血糖測定器,グルカゴン 1mg/ml(低血糖治療用),ロラゼパム 1mg(てんかん用,agitation後の鎮静),経直腸ジアゼパム,筋注用ジアゼパム,経鼻ミダゾラム,メトクロプラミド錠(制吐薬),メタミゾール錠・アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)
いろいろ工夫が感じられますね.飛行機に乗ることが多いドクターはぜひ原文もご一読ください.
JNNP 82;981-985, 2011
そんな疑問に答える論文がスペインから報告されている.スペインのMadridBarajas国際空港から大学病院(3次救急)の神経内科にコンサルトがあった症例について,21ヶ月間に渡る前向き研究である.対象は77名で,うち59名(76.6%)が男性.平均45.9歳(8-89歳).
さて発症のタイミングは着陸後44名(58.7%),飛行中31名(41.3%),不明2名(5.1%).問題の疾患については,39名がてんかん発作(50.9%),18名が脳卒中(23.4%),そして20名(26%)がその他の診断であった.その他は,多いものから,薬剤中毒(コカイン,睡眠薬,カルバマゼピン,メトフォルミン),非器質的疾患,失神,末梢神経麻痺(撓骨・顔面神経麻痺),認知症患者のせん妄,脳炎,片頭痛,一過性全健忘であった.
1位のてんかん発作を来した患者のうち25名(61%)にはてんかんの既往歴はなかったものの,飲酒との強い関連がった.興味深い症例として,コカイン密売人の3名が挙げられる.この3名はコカインの体内隠匿者であった.つまり密輸のためコカインの入った小さな包みを飲み込み,何らかの具合で腹部内にあった包みが破裂し,引き続いててんかん発作が生じたのだそうだ.その他,症候性てんかんの原因としては,脳梗塞,動静脈奇形,肺塞栓症がみとめられた.てんかんの既往があって,発作を来した患者の大半は,抗てんかん薬をきちんと内服していなかった.
2位の脳卒中の内訳は,脳梗塞,脳出血が8名ずつで,TIAが2名.8名の脳梗塞のメカニズムとしては5名で高度(90%以上)の内頸動脈狭窄を認めた.1名はエコノミークラス症候群であった.6名はtPAの適応があり,血栓溶解療法を受けた.
以上より,飛行機の上で神経内科医が呼ばれそうな病気は,アルコールや薬剤に関連したてんかんと,大径血管の動脈硬化に伴う脳梗塞ということになる.
あとこの論文には飛行機における治療のアルゴリズムや,飛行機に積むべきオススメの医薬キットも記載されている.ちなみに医薬キットはこんなもの.
挿管チューブ,血糖測定器,グルカゴン 1mg/ml(低血糖治療用),ロラゼパム 1mg(てんかん用,agitation後の鎮静),経直腸ジアゼパム,筋注用ジアゼパム,経鼻ミダゾラム,メトクロプラミド錠(制吐薬),メタミゾール錠・アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)
いろいろ工夫が感じられますね.飛行機に乗ることが多いドクターはぜひ原文もご一読ください.
JNNP 82;981-985, 2011
