多系統萎縮症(MSA)には疾患特異的な診断マーカーがないため,その診断は難しい.具体的にはMSA-Pとパーキンソン病(PD)の鑑別は容易ではないが,臨床的にL-DOPAに対する治療反応性が乏しいことや,錐体路症状や小脳失調症状,自律神経症状の合併はMSA-Pを疑わせる警告サインである.
今回,European MSA study group(EMSA-SG)は,これらのような警告となる臨床的なサイン(彼らはこれをred flagと呼んでいる)が,2つの疾患の鑑別に有用であるのかどうかを検討する目的で,23項目からなる「標準red flagsリスト」を作成した.このなかには早期からの転倒や喉頭喘鳴,いびき,構音障害,嚥下障害,顔面口腔ジストニア,腰曲がり・首下がりのほか,興味深いものとして感情失禁(泣き・笑)やRaynaud現象が含まれている.そしてこのリストを57名のprobable MSA(Gil,an分類)と116名のprobable PDで検討している(ちなみにPDの診断はUnited Kingdom Parkinson’s Disease Society Brain Bank Criteriaに従った).まずこの検討で特異度が95%以上となった14項目をリストに残した(例えばRaynaud現象はMSA-Pで11.1%,PDでは3.4%,よって特異度96.6%で残った).その後,項目を減らす目的で因子分析を行い,最終的に以下の6項目にまでリストを絞った(日本語に訳すとニュアンスが損なわれることがあるので英語で記載する).
1. Early instability
2. Rapid progression
3. Abnormal posture(Pisa症候群,首下がり,手か足の拘縮を含む)
4. Bulbar dysfunction(高度の発声困難,構音障害,嚥下障害を含む)
5. Respiratory dysfunction(日中もしくは夜間の吸気性喘鳴,もしくは吸気性のため息)
6. Emotional incontinence(不適切な泣き,笑い)
グループは次に,この診断セットを17例のpossible MSAで,経過観察中にprobable MSAに移行した症例群に当てはめた.この結果,2つ以上のred flagをもつ症例では特異度が98.3%,感度が84.2%にまで上昇するという結果であった.またconsensus criteriaではpossible MSAであっても,この診断セットを併用することで,最初の段階でpossible MSAであった症例のうち13症例(13/17=76.5%)でprobable MSA-Pと診断することができ,平均15か月,consensus criteriaのみより早く診断が可能となった.以上より,probable MSAの診断のために,possible MSAであってもred flags診断カテゴリー6項目のうち2項目以上を満たすせばprobableと診断して良いということを,診断基準に追加することを提案したいというのが本研究の要旨である.将来的に開始されると思われる治療介入を意識すれば,早期の診断は極めて重要であり,とても歓迎すべきことではないかと思われ,possible MSAではこの6項目を検討することをお勧めしたい.
追伸;ところで,MSA-PとPDの臨床像の違いについても面白いデータが載っていた.以下に列挙してみる.
たとえばCamptocormiaはMSA-Pで32.1%,PDでは5.9%,よって特異度94.1%
Pisa症候群はMSA-Pで42.1%,PDでは2.5%,よって特異度97.5%
首下がりはMSA-Pで36.8%,PDでは0.8%,よって特異度99.2%
RBDはMSA-Pで43.1%,PDでは27.4%,よって特異度72.6%
Bendingの症状はやっぱりMSAで出やすいことがデータでも分かる.
Mov Disord 23; 1093-1099, 2008
今回,European MSA study group(EMSA-SG)は,これらのような警告となる臨床的なサイン(彼らはこれをred flagと呼んでいる)が,2つの疾患の鑑別に有用であるのかどうかを検討する目的で,23項目からなる「標準red flagsリスト」を作成した.このなかには早期からの転倒や喉頭喘鳴,いびき,構音障害,嚥下障害,顔面口腔ジストニア,腰曲がり・首下がりのほか,興味深いものとして感情失禁(泣き・笑)やRaynaud現象が含まれている.そしてこのリストを57名のprobable MSA(Gil,an分類)と116名のprobable PDで検討している(ちなみにPDの診断はUnited Kingdom Parkinson’s Disease Society Brain Bank Criteriaに従った).まずこの検討で特異度が95%以上となった14項目をリストに残した(例えばRaynaud現象はMSA-Pで11.1%,PDでは3.4%,よって特異度96.6%で残った).その後,項目を減らす目的で因子分析を行い,最終的に以下の6項目にまでリストを絞った(日本語に訳すとニュアンスが損なわれることがあるので英語で記載する).
1. Early instability
2. Rapid progression
3. Abnormal posture(Pisa症候群,首下がり,手か足の拘縮を含む)
4. Bulbar dysfunction(高度の発声困難,構音障害,嚥下障害を含む)
5. Respiratory dysfunction(日中もしくは夜間の吸気性喘鳴,もしくは吸気性のため息)
6. Emotional incontinence(不適切な泣き,笑い)
グループは次に,この診断セットを17例のpossible MSAで,経過観察中にprobable MSAに移行した症例群に当てはめた.この結果,2つ以上のred flagをもつ症例では特異度が98.3%,感度が84.2%にまで上昇するという結果であった.またconsensus criteriaではpossible MSAであっても,この診断セットを併用することで,最初の段階でpossible MSAであった症例のうち13症例(13/17=76.5%)でprobable MSA-Pと診断することができ,平均15か月,consensus criteriaのみより早く診断が可能となった.以上より,probable MSAの診断のために,possible MSAであってもred flags診断カテゴリー6項目のうち2項目以上を満たすせばprobableと診断して良いということを,診断基準に追加することを提案したいというのが本研究の要旨である.将来的に開始されると思われる治療介入を意識すれば,早期の診断は極めて重要であり,とても歓迎すべきことではないかと思われ,possible MSAではこの6項目を検討することをお勧めしたい.
追伸;ところで,MSA-PとPDの臨床像の違いについても面白いデータが載っていた.以下に列挙してみる.
たとえばCamptocormiaはMSA-Pで32.1%,PDでは5.9%,よって特異度94.1%
Pisa症候群はMSA-Pで42.1%,PDでは2.5%,よって特異度97.5%
首下がりはMSA-Pで36.8%,PDでは0.8%,よって特異度99.2%
RBDはMSA-Pで43.1%,PDでは27.4%,よって特異度72.6%
Bendingの症状はやっぱりMSAで出やすいことがデータでも分かる.
Mov Disord 23; 1093-1099, 2008
当方の大学でも少し試しつつありますが、これが本当ならばもっと鑑別が楽になるはずです。