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Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

一ミリでも向上するために

2013-05-04 | 文学・思想
日本は憲法記念日らしい。今年ほど真剣にそれが議論されることもないであろう。無知蒙昧な為政者が、こともあろうに、19世紀のそれも市民革命以前のプロシア憲章をもとにした明治憲法に戻そうとしているようだから、まともな教育を受けている者が決して受け入れれるようなものではない ― ポルポト流の原始回帰である。

集団的自衛権や国防軍化以上に、徴兵制に代表されるような権的な国粋主義的な理念実現がそこに迫っていて、如何にも日本的な歴史の逆行現象が進もうとしているかのようである。

徴兵制と言えばドイツに移住する前に東西分立ドイツでは兵役が存在していた。そのことが脳裏を掠めたのは事実であった。その兵役がそこに迫っているのが現在の日本であり、兵役が無くなったのがドイツ連邦共和国である。必要悪の国防は、皆兵のスイス人と話しても、兵役を経験したドイツ人と話しても良い体験だったなどと言う人には出会ったことが無い。ドイツのそれは信条的な理由で多くの友人が免除されていて、兵役に行っていなかったが、スイスの皆兵などと言うとさぞかし誇らしい気分もあるかと思ったがそれは全く違っていた。

要するに兵役などと言うのは非人間的なものであって、如何に1970年以降の日本の反動教育て育った者が信じている「英霊の心情」などが嘘八百であるかと言う証明である。先日の死者情報公表に関しても、肯定的に「自らも英霊として偲んで欲しい」と言うような妄想を抱いた良い齢のその世代の意見を聞いていると、犬死でしかない戦争協力者の一般市民や戦犯の祀られている護国神社や靖国神社の特殊な新興宗教に心が侵されているとしか思われないのである。勿論、戦犯と言うのはここでは戦勝国が裁いた戦犯などではなくて、責任を持ち得ていた軍属のそれを指すのであって、天皇は特殊な例としても、下級の将校までを含めてありとあらゆる敗軍の英霊は戦犯なのである。それが責任と言うものなのである。

小市民が死へと駆り立てられる世界が迫っているのである。それは近代的な自我を捨て去り、主体性の無い奴隷のような水飲み百姓と呼ばれるような前近代の日本人に大多数が戻ることでしかない。自立できなかった日本人であるが、それでも少なくとも中共のそれとはまだ違うと期待している。それはやはり啓蒙思想の浸透であろう。大正デモクラシーを挙げるまでもなく、あの時代遅れの封建的な明治憲章の時世においても日本人は教養を蓄えていたのは事実であり、それは多くの重要な世界的な文学や文芸が親しまれて来た歴史が証明している。これは、マルキズム一色の中共などの歴史とは全く趣を異とするものである。

奇しくも、その啓蒙思想から進歩的なヴァイマール憲章を通してナチスドイツを招いて大きな障壁を乗り越えたドイツ人と、盛んに文化を取り込みながら敗戦によってはじめて進歩的な憲法を勝ち得た日本人とは全く異なった道を歩んだのだ。しかし、文化的な親和性は決して弱くは無く、それはなにも古典に遡らなくとも1924年に発表されたトーマス・マンの「魔の山」が逸早く翻訳されて今までに最も読まれている国でもあることに表れているだろう。

この作品について、「ハンス・カストルプの物語は、熱を帯びた閉じられた魔の山の環境で、感覚的で精神的で道徳的な冒険を為すまでになる向上の歴史である。それらを、それ以前には決して夢見だしなかったちっぽけな英雄だったのである。」とノーべル賞作家は「オンマイセルフ」に書いている - そして主人公は最後には帝国の兵士として銃火のなかぬかるんだ土嚢を超えて行くのであった。

今日の自分よりは、明日の自分は一センチでも一ミリでも立派になっていたいと思う小市民的な想いこそが、近代の自我であり、近代の文化や教養の基礎となっている。それゆえに希望があるのであり、逆行する世界や環境などはまともな人間には決して受け入れることが出来ないのである。これはマルキズムなどの進歩思想とは一切関係ないことなのである。日本人は考えなければいけない。これまでに文化需要に出資したその経済的な犠牲に値するだけのものから得たものは、決して先祖戻りなどであるわけがないのである。


本日の音楽;モーツァルト作曲オペラセーリア「ティトースの寛容」



参照:
「魔笛」初日の解読の鍵 2013-03-25 | 文化一般
高等文化のシンクタンク 2009-12-02 | 文学・思想
襲い掛かる教養の欠落 2007-07-27 | 雑感

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