田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

日光三仏堂 金剛桜 麻屋与志夫

2021-05-16 11:25:45 | 超短編小説
超短編小説17
日光三仏堂金剛桜
                           

「まちましたか」
 トーマスは日本語を忘れてはいなかった。ユダヤ系のドイツ人で勝利とは日光の小学校で一緒だった。奥日光の南間ホテルで1945年の夏を共に過ごした。六年生だった。第二次世界大戦の折、日本で一番安全な場所として平成天皇が皇太子時代に疎開していたホテルだ。 
「カツトシ、げんきだったか」
お互いになつかしさのあまり若者のようにはしゃいでハグした。勝利おもわずよろけた。
「ダイジョウブカ、勝利」
「トミーはげんきだな。88歳という歳を感じさせない」
 88歳まで生きながらえることが出来たら、三仏堂の前庭のこの金剛桜の下で会おうと約束した。八十八歳は米寿。その半分が四、四。これなら絶対に忘れない。米という漢字は米国の米でもあるし。
2021,4,4日にこの桜の下で再会しよう。
「桜は散って葉桜になってしまった」
「そうなんだ。トミー。ぼく等が別れた四月、あの時は満開だったからな」
 満開の桜の下で勝利とトーマスはいかにも少年らしいロマンチックな別れかたをした。
 勝利はマスクをとった。
「マクドナルドのおじさんみたいなヒゲをはやしたんだ。よく似合っているよ」
 あのころ、トミーに英語を教わった。お父さんがドイツ人でお母さんはアメリカ人だった。コスモポリタンな家族だった。
トミーは勝利が英語の習得がみごとだ。勝利はジュニアスだ  
とよくほめてくれたことをおもいだした。
「桜の開花は年々早まっているんだよ。トミー」
 このところ気になっていることを勝利は口にした。
「地球温暖化の影響だ」
 あのころの季節とはすっかり様変わりしてしまった。桜はすっかり散ってしまっていた。
「コロナウイルスだって、そうだ。地球規模の危機だ。こんなとき、オリンピックを
やるなんて狂気のさたですよ。このまま予防接種も効かない、新しい株が…ウイルスが変異しつづけたら、人類の危機です。そうだろう? 勝利」
 勝利が返事に困っていると――。
「勝利さんですか」
 マスクをとって近寄ってくる。トミーを若くした風貌。
「??????」
「父の約束を果たしにきました」
 振り返るとトミーが金剛桜の幹にすいこまれていく。

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