ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『 日本が軍事大国になる日 』 - 42 ( 民族紛争が激化する南アジア )

2022-04-05 21:03:33 | 徒然の記

 南アジアに関する、江畑氏の意見を紹介します。197ページです。

 「1990 ( 平成2 ) 年代に、東南アジア諸国では国内の安定化が顕著になった。」「これと反対に国内不安、特に民族紛争が噴き出したのが、南アジア諸国である。」

 南アジア諸国とは、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、ブータン、モルディブの7カ国で構成されています。

 「冷戦時代の超大国の確執が消滅し、この地域はその影響から抜け出したが、」「同時にそれまで潜在していた、民族、宗教問題が一気に噴出した。」「冷戦時代は超大国が自陣に引き入れるため、ある程度黙認してきたことも、」「世界政治の大きな問題として、指摘されるようになった。」「人権問題や、核兵器の開発などである。」

 冷戦後の南アジアの状況変化は、氏の説明でよく分かります。

  ・インド洋に、15~30隻の艦艇を常時展開させていたソ連海軍の姿はもうない。

  ・ペルシャ湾に1~2隻の戦闘艦と、補給艦一隻を置くだけとなった。

  ・米国もインド洋に、常時空母戦闘群を展開させる必要性も、経済力も無くなった。

  ・1993 ( 平成5 ) 年現在、イラク経済封鎖とソマリアでの平和維持活動のため、ペルシャ湾・ソマリア沖に、常時空母戦闘群を展開している。

  ・つまりペルシャ湾とソマリアの問題が解決したら、必要がない限り米国は、インド洋に常時空母戦闘群を展開することをしなくなるはずである。

 その代わり南アジアでは、米ソでなく、イランが脅威となっていると言います。日本ではほとんど報道されませんが、イランは軍事力を増強し、インド洋とペルシャ湾の覇権を狙っており、潜水艦や超音速爆撃機を持ち、長距離洋上攻撃能力を向上させ、世界の心配を呼んでいます。

 「そして現在インド、パキスタン、イランのいずれもが、」「核兵器を保有し、そこに大きな努力を払っているという不安定要因が、問題となっている。」

 本が出版されたのは平成6年 (1994) 年ですが、3国はこの時すでに核保有国になっていました。北朝鮮、パキスタン、イランの核開発については、アメリカが重大視し、阻止するため中ロを巻き込み騒ぎしましたが、インドの核開発は、いつの間にか既成事実が出来上がりました。

 北朝鮮は、昭和31 ( 1956 ) 年の朝鮮戦争終結と同時に核開発を開始し、昭和57 ( 1982 ) 年に核保有に成功したと言われています。核保有の事実を脅し文句に使い、アメリカだけでなく、ロシアや中国を手玉に取る手本を見せたのは、北朝鮮です。

 インド、パキスタン、イランは、北朝鮮のような独裁国家でありませんが、いざとなれば何をするか不明な国でもあります。プーチン氏の核の脅しに対し、米英仏が手出しをしない例を作りましたので、今後ますます地域安定の予測が難しくなりました。

 核問題について深入りするのを止め、氏の説明する当時の各国の民族紛争を紹介します。

 〈 スリランカ  〉

  ・1983 ( 昭和58 ) 年から、タミル人過激派の独立武装闘争が激化した。

  ・人口の74%を占める仏教徒シンハリ人の支配に対し、ヒンズー教とイスラム教を信じるタミル人が分離独立を求めた。

  ・その中心が、「タミル・タイガー」と呼ばれる武装集団である。

  ・1993 ( 平成5 ) 年、プレマサダ大統領以下24名を、自爆テロにより殺害した。

  ・同年、野党の民主統一国民戦線議長アトラトムダリ氏が暗殺された。

  (・1991 ( 平成3 ) 年のインド首相ガンジー氏の暗殺も、タミル人過激派制圧に協力した報復として、「タミル・タイガー」が行ったと言われている。)

 〈 インド  〉

          東部のジャルカンド建設運動、北東部のパンジャブ紛争、西部のカシミール帰属問題、そして国内には、ヒンズー教徒とイスラム教との対立問題を抱えている。

    1.  東部のジャルカンド建設運動

   ・ジャルカンド建設運動とは、森林資源や地下資源に富む高原地帯の少数民族が、居住地を自治州として認めるよう要求しているもの。

   ・少数民族の武力攻撃は警察力で対応できているが、他の国内紛争と連動し、インド政府の弱体化を図る恐れがある。

    2. 北東部のパンジャブ紛争

   ・シーク教徒が独立を要求しているものだが、州政府の強行制圧で今は沈静化している。

    3. 西部のカシミール帰属問題

   ・1947 ( 昭和22 ) 年のインド独立と、パキスタンの建国時以来、カシミールの帰属問題が決まっていない。

   ・第一次、第二次、第三次とカシミールの帰属をめぐり、両国が戦争しているがいまだに決着していない。

   ・インド内のイスラム教徒による、パキスタン編入運動が起こり、両国軍が衝突している。( インド政府は、パキスタンの過激派支援を非難している。 )

 昔はセイロンという名前だったスリランカは、日本では紅茶の国として有名です。インドは、無抵抗主義のガンジーと、平和主義のネール首相が日本人に親しまれ、上野動物園に贈られた象のはな子など、穏やかな国という印象を持たれています。

 江畑氏の説明を読みますと、「いずこも同じ秋の空」で、世界中安穏な国のないことが分かります。ロシアがウクライナを侵攻している今は、なおさらその感があります。明るい気持ちになれませんが、氏の書評を続ける意義は変わりません。

 スリランカ、インド、が終わりましたので、パキスタン、バングラデシュ、ネパール、ブータン、モルディブと、次回も氏の本を読みます。

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『 日本が軍事大国になる日 』 - 41 ( 国難を弄ぶ、共同通信社 )

2022-04-05 20:55:41 | 徒然の記

 ロシアのウクライナ侵略、中国による南沙諸島完全軍事化と、二つの社会主義独裁国家が世界を掻き回しています。今朝のニュースでは、北朝鮮のキム・ヨジョン氏が、韓国が北朝鮮を攻撃すれば、核で反撃すると述べたとのことです。

 核保有国を甘く見ると、想像を絶する大惨事になると脅しています。プーチン氏が、核攻撃を口にして以来、アメリカもEUもロシアに手出しができなくなった事実を見て、ヨジョン氏までが悪ノリしています。

 核の脅しがあれば、他国は何も手出しができなくなるのか、これが大きな課題として浮かび上がってきました。

 それでも私は、予定通り江畑氏の書評を続けます。

 今回は197ページ、「インド洋の軍事環境」です。28年前の著書で語られている状況は、様変わりしていますが、「バランス・オブ・パワー」の基本は同じです。各国が国益という名のエゴをむき出しに、せめぎ合う姿は今も変わりません。亡くなった氏が、私たち日本人へ遺した貴重なメッセージを読み取ることが、解決の鍵になります。

 奇しくも氏のテーマは集団安全保障で、ASEANが単なる東南アジアだけの機構でなく、アジアから太平洋へと広がる様子を語っています。プーチン氏だけでなく、習近平、キム・ヨジョン氏らを見れば分かる通り、核の脅しをするのは決まって共産主義国の独裁者たちです。

 米、英、仏は、核保有国ですが、国連での〈核5大国の約束〉、「決して核は使わない」を律儀に守っています。核を使えば核で反撃されるという恐怖心を、米、英、仏の指導者たちが共有しています。ひとたび核を使えば、人類破滅の核戦争になると、これが〈核5大国の約束〉と常識です。

 プーチン氏が〈核5大国の約束〉を反故にし、常識と理性を捨て、「核攻撃を示唆」すると、他の独裁者が真似をします。習近平氏は、台湾と尖閣を攻撃しても、米英仏は動けないと見ました。意思表示をヨジョン氏に先を越されましたが、ウクライナの次は、台湾です。

 北朝鮮が暴走しても、習近平氏が暴走しても、犠牲になるのは日本です。だから江畑氏の著作のメッセージが、重要性を持ちます。

 「集団安全保障体制」を作ること・・・これが答えです。「座して死を待つくらいなら、家族と国のために命を捨てる。」・・ウクライナの兵士たちの合言葉だそうですが、国難を目の前にすれば、自然と人間はそうなります。これも世界の常識です。

 3月22日の千葉日報に配信された、共同通信社の記事は、世界の常識から外れていました。あいも変わらぬ反日左翼記事で、日本の進路を狂わせます。だから、江畑氏の書評を続けようと決めました。新聞記事は後ほど紹介するとして、私が読み取った氏のメッセージを紹介しておきます。

  ・暴走する国が核で脅してきたら、集団安全保障体制で対抗するしかない。

  ・たとえ核がない国の集まりだとしても、先制攻撃する軍事力があれば、抑止力になる。

  ・日本も安全保障体制に参加し、リーダーシップを取るべきである。

  ・そのためには、他国と同様の軍事力がいる。(  憲法改正は当然の話 )

 今のところ、謙虚な氏は、自分の思いをそのまま述べていませんが、著書を真面目に読めば、一貫した流れが根底にあります。最後まで読めばわかることですから、書評はここでやめ、3月22日の共同通信社の記事を紹介します。紙面の半ページを使った大きな記事です。安倍元総理と岸田総理への、批判、攻撃、冷笑記事で、国際危機を感知しない、三流通信社の報道です。

 「自民また 国難強調」「17年衆院選の再現狙いか」「ウクライナ横目に参院選へ」

 これが記事の見出しです。共同通信社がどのレベルの会社か、読めばすぐに分かります。同じ記事が、北海道から沖縄まで、全国の地方紙に配信されているのですが、日本国民にとって必要な会社なのか、つい考えたくなります。記事の書き出し部分を、そのまま紹介します。

 「夏の参院選をにらむ自民党が、ウクライナ危機の影響で〈国難〉に直面した日本を救えるのは、」「自民・公明の連立与党だけだと、訴え始めた。」「〈国難〉を強調すれば安定を求めて、与党支持が増えるとの読みが透ける。」

 「念頭には、2017年の衆院選があると見られる。」「当時の安倍晋三首相は、北朝鮮の核・ミサイルに立ち向かうとして、」「〈国難突破〉を叫び、与党を勝利に導いた。」「自民総裁の岸田文雄首相は〈二匹目のどじょう〉を狙う構えだが、」「成果は見通せない。」

 日本だけでなく、世界でも有名な巨大通信社ですが、彼らには世界の危機と国難が、参院選の小道具にしか見えていないようです。安倍元総理と岸田氏について、是々非々の態度、というより、むしろ批判的な私ですが、それでも共同通信社のように卑小な見方はしません。

 国難は事実で、日本の危機は目の前にあります、日本の舵取りをする首相が、選挙の道具に使っていると、そこまで政治家をみくびっていいものかと考えます。政権を批判すれば、読者が喜ぶ時代は終わったのです。真面目な記事を書かなければ、国民の怒りが共同通信社へ向かいます。地方紙の不買が始まり、定期購読者が減少すれば、朝日新聞の二の舞です。国難が社難に連動していると、早く気づく賢さも無さそうです。

  今回は197ページ、「インド洋の軍事環境」です。

 とうとう1行だけで、江畑氏の書評が終わりましたが、次回から始めます。〈国難〉を考えておられる方々は、「ねこ庭」へ足をお運びください。お待ちしています。

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