久しぶりに江畑氏の著作へ戻ります。190ページ、「ASEAN」です。
「東南アジア諸国の軍備近代化、あるいは増強は、」「必然的に、軍事的衝突の可能性を拡大することになる。」「このままいけば東南アジアが、基本的に不安定化するのは明白である。」
前回までに教わったことを繰り返しますと、東南アジア諸国の背後には大国がいます。
「クーデターを起こし、アウンサンスーチー氏を軟禁し続けているビルマ軍政府は、親中政権です。ベトナムは反中・親ロ政権で、カンボジアは途中で親中のロン・ノル政権ができましたが、今は親米政府です。」
しかも各国が国内に、反政府武装勢力を抱えているのですから、それだけでも不安定です。本題に入る前に、東南アジアにある11の国について、国名、首都、人口を再確認します。 ( 人口は、令和2年現在 )
1. ブルネイ ( バンダルスリムガワン ) 44 (万人)
2. カンボジア ( プノンペン ) 1,672
3. インドネシア ( ジャカルタ ) 27,352
4. ラオス ( ビエンチャン ) 728
5. マレーシア ( クアラルンプール ) 3,237
6. ミャンマー ( ネピドー )・・旧 ヤンゴン 5,441
7. フィリピン ( マニラ ) 10,958
8. シンガポール ( シンガポール ) 569
9. タイ ( バンコク ) 6,980
10. ベトナム ( ハノイ ) 9,734
11. 東チモール ( ディリー ) 132
東南アジアの安定化のためには、軍事でなく、外交の力で関係国間の信頼を高めることが必要だと、氏が言います。
「それは一国だけでできるものではなく、一国だけが突出することも好まれない。」「中国、インド、あるいは日本などの外部勢力の進出に対抗するため、」「結束することが求められる。」
日本が外部勢力に入れて語られるのが意外ですが、戦前のことを思えば、そういう分類になるのでしょうか。
「新たな集団安全保障機構を創設するのは、容易でないが、」「既存の組織を元にして、安全保障機構に発展させられれば、」「それは比較的に容易く実現できよう。」
それがASEANだと、言います。ASEANは、1967 ( 昭和42 ) 年に、インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピンの5ヶ国で発足した、地域的経済協力機構でした。( 上記、青字で表示した国 )この時期の国際情勢を反映し、当初は反共連合的な性格でしたが、その後は各国の経済発展を助長する、経済協力機構の性格が強くなりました。
「軍事機構にはしないという約束が、加盟国で確認され、」「特に非同盟主義を打ち出しているインドネトアが、その堅持を強く求めている。」
東南アジア11ヶ国のうち、人口が一億人を超える大国は、インドネシアとフィリピンですから、インドネシアの意向は尊重されたと思います。政治や軍事に傾くと、必ず大国の介入を招きますから、経済に絞るというのは彼らの知恵でした。
「それでもアセアン諸国間で、ベトナム軍や、駐留するソ連軍に関する軍事情報の交換や、」「ある程度の兵器導入共通化の、協力が行われてきた。」「平成2 ( 1990 ) 年からは、各国軍の参謀長間での非公式会議が持たれるようになった。」
氏の説明を読んでいますと、軍事機構にしないという建前を崩さず、目の前の事態には現実的対応をするという、アセアン独特の「現実主義」を見ます。
・平成3 ( 1991 ) 年、マニラで初のASEAN安全保障協力会議を開催。
米国、中国、ソ連、日本、オーストラリアの8ヶ国から、外務省、防衛省の専門家が個人資格で参加。
・第二回会議が、マレーシアのクアラルンプールで開催。
米軍のフイリピン撤退の動きがあり、ASEANも地域安全保障に取り組むべしという意見が出た。
この時点ではまだ、ベトナム、ラオスが参加していませんが、大きな市場が期待できるベトナムに対し、各国は個別に接触を始めていました。氏の説明によると一番熱心なのがタイで、これに影響され、インドネシアとマレーシア、シンガポールが民間レベルでの投資に動いていたと言います。
次回は、ASEANの拡大について、氏の説明を続けて紹介します。