江畑氏の著作を、読み終えました。書評の一回めに「謙虚な軍事評論家」と評しましたが、最後まで氏はそうでした。氏の言葉の全てが心の中で反響し、目を閉じると自然に頭が下がります。
私たちへの「遺言」として、受け止めるべきものがあります。息子たちと、「ねこ庭」訪問される方々へ氏の願いの一端でも、正しく伝えられたらと思います。
反日左翼思想を嫌悪し、日本を否定する人々への強い怒りを燃やす自分は、果たして冷静な氏の言葉を伝えるにふさわしい人間かと、自問自答させられます。自分に都合の良い解釈をせず、感情を昂らせない努力をしなければなりません。
本が出版された平成6年がどのような年であったのか、調べてみました。
- 細川護熙首相辞任、羽田孜内閣発足。
- 巨人の槙原寛己投手が完全試合を達成。
- 羽田内閣総辞職、自社さ連立政権の村山富市内閣発足、自民党与党に返り咲く。
- 松本サリン事件が発生。
- 宇宙飛行士の向井千秋がスペースシャトル コロンビアで宇宙へ飛び発つ。
- 夏は猛暑によって全国各地で水不足となり、東京で観測史上最高温度の39.1度を記録。
- ジュリアナ東京閉店。
- 関西国際空港開港。
- プロ野球オリックスのイチロー選手が史上初の年間200本安打を達成する。
- 大江健三郎がノーベル文学賞を受賞。
- つくば母子殺人事件が発覚。
- 大相撲で貴乃花光司が横綱に昇進する。
- ソニー初の家庭用テレビゲーム機、プレイステーション発売。
- 新生党、公明党、日本新党、民社党等が合流して、新進党結成。
- リレハンメルオリンピック開催
- パレスチナ自治政府設立。
- ルワンダ虐殺が発生。
- 南アフリカ共和国でネルソン・マンデラが大統領に。
- アイルトン・セナがレース中の事故で死去。
- 英仏海峡トンネル開通
- 北朝鮮の国家主席である金日成が死去
- メジャーリーグベースボールがストライキに突入、ワールドシリーズ中止。
「政界の壊し屋」である小沢一郎氏が、活躍していた年でした。細川内閣、羽田内閣、村山内閣と、今は懐かしい思い出となった短命内閣です。槙原寛己投手の完全試合、イチロー選手の年間200本安打達成、貴乃花光司の横綱昇進と、スポーツ界では明るい話題に国民が沸いていました。
南アフリカ共和国ではネルソン・マンデラが大統領になり、北朝鮮では金日成が死去していました。パレスチナ自治政府が生まれ、少し世界が静かになるかと思われる一方で、アフリカのルワンダでは、民族同士が争う虐殺が発生しました。世界も日本も政治の話になると、今も変わらない混乱と激変とです。氏はこうした世相を観察しながら著書を執筆していました。
「東北アジアからインド洋、ペルシャ湾に至る地域は、」「日本が輸入する石油のほとんどが生産され、運ばれてくる場所である。」
「石油だけでなく、日本が必要とするほとんどの原材料が生産され、」「日本の製品が輸出され、通過する場所でもある。」「仮にこの海上交通路を、〈オイルロード〉と呼ぶこととすると、」「この地域のどこに生じた紛争も、日本に大きな影響を及ぼさずにはいないであろう。」
重要な輸送路と知っていても、多くの日本人は、〈オイルロード〉を軍事とは結びつけて考えません。
「日本は年間7億トンの物資を輸入し、7000万トン以上の貨物を輸出している。」「その99%以上が、船で運ばれる。」「これは毎日、二万トン級の貨物船100隻が日本の港に入り、」「10隻が出港するということでもある。」
「7億トンの中には石油も含まれるから、そう簡単には貨物船100隻と計算することはできないが、」「石油だけでも20万トンタンカーが、三日に一隻は日本に入港せねばならない計算になる。」
数字で説明されると、〈オイルロード〉の重要性が分かってきます。この地域にある輸入資源が積み出せなくなったり、製品が送れなくなる事態が生じれば、日本経済は大パニックになります。さらに日本は、これらの地域に巨額の投資を行なっているから、〈オイルロード〉の安全保障に無関心でいられないはずと語ります。
「〈オイルロード〉に存在する紛争、あるいは危険要因を、」「日本から辿っていくと、先ず東シナ海における尖閣諸島の領有権問題がある。」
「この問題に関しては、日本も台湾もあまり積極的に触れないようにしているが、」「平成4 ( 1992 ) 年の中国の領海法公布により、事態が非常に複雑になってきた。」
今から26年前、日本の政界は中国詣でをしていた時ですから、尖閣問題はマスコミが報道しませんでした。そんな時に氏が、尖閣の危険性を指摘していたことになります。
次回は氏の尖閣に関する意見を、紹介します。