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古い本 その122 古典的論文 ジェームス・ディーン

2022年10月09日 | 化石

 このブログでは属の命名史について調べているので、Sauroidichnites とOrnithoidichnites について見てみよう。Wikipediaでは、Sauroidichnitesが記録されていることは認めているが、属よりも上の単位として記されているとし、先取権を認めていない。Ornithoidichnitesも理由は明瞭でないが認めていないようだ。この理由は少々無理があって、文中でS. Barrattiというように属名として取り扱っているとも言える。
 Hitchcockは、1847年にも別の種類を提唱している。
⚪︎ Hitchcock, Edward, 1847. Description of Two New Species of Fossil Footmarks found in Massachusetts and Connecticut, or, of the Animals that made them. The American Journal of Science and Arts, Ser. 2. Vol. 4: 46-57. (Massachusetts州と Connecticut州で発見された化石足跡の二新種の記載と、それを残した動物について)
 論文では最初に足跡が発見されてから公務が忙しくて何年も経ったが、ここで発表を始める(再開する?)ことにしたと記されている。そのあと、1 三畳紀にこの足跡を作ったなんらかの動物がいた。2 この動物はこれまでに記載されていない。3 動物は一種類ではない。4 比較解剖学的には鳥のものである。 5 現生の鳥ではかなりの程度で足跡からの種の決定が可能。以下省略するが、足跡を元にして種を命名することの正当性を主張しているようだ。そしてp. 49に採集した足跡化石のスケッチが示されている。

443 Hitchcock, 1847 Fig. 1.

 そして、次のページに新属新種Brontozoum parallelum の記載がある。この属は現在も使われているようだ。

444 Hitchcock, 1847 Fig. 2. Brontozoum parallelum

 サイズは、中央の指が2から3インチとなっている。どこを測ったのか明確ではない。種類については、鳥であってダチョウ科に似るとしている
 もう一種類の名は55ページに出てくる。Otozoum Moodiiという学名で、Fig. 1 に見られるもののうのち大きい方に対して命名された。足跡の長さは20インチ。さらに文末にBrontozoum giganteumという種類の名前も出てくる。
 Hitchcockは。1858年に集大成ともいうべき大作を発表した。
⚪︎ Hitchcock, Edward. 1858. Ichnology of New England. A Report on the Sandstone of the Connecticut Valley, Especially its Fossil Footmarks, Made to the Government of the Commonwealth of Massachusetts, xii-214, 約70図版.(New Englandの生痕学:Connecticut Valley の砂岩の報告、特に砂岩中の化石足跡...)(量が多いので部分的に入手)
 図の数も非常に多いが、非常に丁寧なスケッチがある一方で簡単な概念図のようなものもある。一部には写真も使われている。

445  Hitchcock, 1858. Plate 60. Otozoum Moodi

 上の写真はガラスに感光材を塗って作る湿板写真(ambrotype)。横幅60インチ(約1.5メートル)縦が38インチ(約1メートル)という大きな標本。
 残念ながら本文は長いから読んでいない。文中にはDeaneの研究とのプライオリティーについて言及した部分もある。
 次にこのDeaneについて調べた。James Deane (1801-1858) は医者で。実際には足跡の発見はDeaneが先だったかもしれない。研究者としては有名ではない。
調べて出てきた論文は次のもの。
⚪︎ Deane, James 1845. Description of Fossil Footprints in the New Red Sandstone of the Connecticut Valley. The American Journal of Science and Arts, Vol. 48: 158-167, Plate 3.(Connecticut州のNew Red Sandstoneの化石足跡の記載)

446 Deane, 1845. Plate 3

 New Red Sandstoneというのは、地質学史を勉強すると出てくる名前で、イギリス北部で最初に認識された。ペルム紀から三畳紀の、その名の通り赤い砂岩で、建材としてもよく用いられる。デボン紀のOld Red Sandstone と対応して名付けられた。
 彼の論文は他にもある。
⚪︎ Deane, James, 1847. Notice of New Fossil Footprints. The American Journal of Science and Arts, ser. 2, vol. 3: 74-79.(新しい化石足跡の報告)
 発見された場所は、Massachusetts州のTurner Fallsである。現在この場所は公園になっていて、観光案内でも出てくるが、「滝の歴史は1878年にターナーという人が滝でつまずいたのがはじまり。」というようなことが書いてあるが、もっと遡ることがこの文書でわかる。足跡は複数あって、長さ平均14インチ(約35センチ)で他にもっと小さい足跡があるという。現在のネットで調べると地質年代は前期ジュラ紀で、四足の爬虫類のものであるという。足跡のひとつには1858年にHitchcockによってAntipus flexiloquusという学名が付けられた(未確認)。その論文名は既に記した。

447 Deane, 1847. Fig. 4

 Deaneの論文では動物の種類については、「Salamandrian」(有尾類・両生類)のようだと書いてある。学名についての言及はないようだ。文末に「Note.」として8行の追加があり、Prof. Agassiz (たぶんA. Agassiz)の意見として指の数が保存状態で数え間違っているのではないか、という意見が記してある。この部分の著者は末尾に「EDS.」と書いてある。編集者Editer(s)のことだろうが、表紙にはConducted by Professors Silliman, Silliman, Jr., and Danaとしてある。この中で化石関係ならDana (James D. Dana) かな。
 他にもこのころの足跡化石に関する論文がある。古生代の足跡化石や、同じく古生代の固い石灰岩の表面にある人間の足跡と思われる凹みの論文(ただし著者はそれが自然のものと信じていないように思われる。)もある。ここでは地層が中生代のものだけを記した。
 ところで、お気づきだと思うがJames Deaneといえば、Deaneのeを取ったJames Deanは超有名な俳優。余分なことだが、Deaneが足跡を見つけたTurners Fallsはニューヨーク州Edenの約500km東にある。ついでだから記しておくと、ヒッチコックの鳥というのも面白い。古い映画ファンには感じるところがあるに違いない。