のらやま生活向上委員会 suginofarm

自然と時間を、都市と生命を、地域と環境を、家族と生きがいを分かち合うために、農業を楽しめる農家になりたいと考えています

買っただけ積ん読だけの紹介かも(その3)

2009年11月23日 | 農のあれこれ
夏に購入した書籍をようやく紹介できます。
前回の「買っただけ積ん読だけの紹介かも(その2)」は9月21日でした。


『フード・ウォーズ 食と健康の危機を乗り越える道』
ティム・ラング&マイケル・ヒースマン 著
古沢広祐&佐久間智子 訳
コモンズ社 2009年5月 2,800円+税

本国イギリスでは話題になった本のようです。
食料をめぐる
①健康、②産業、③消費者文化、④環境、⑤フード・ガバナンス
という五つの切り口からの論点を整理し、
食と健康の未来をどう選択するのか問題提起してます。


今日の食と健康は長期的な変化の過程にあり、
かつ大きく混乱している。
まさに、この状況は「フード・ウォーズ」だといいます。

つまり、
過去2世紀にわたって工業化と都市への人口集中によって確立された
食糧供給システムが健康や環境の悪化、飽食と飢餓の併存など
大きな課題をかかえ、もはや存続できない状況にある。
かといって、
それに代わる新しい食と健康に関わる考え方、システムが
用意されているかというと、
食料の質・安全性、食糧供給における企業支配、
先端技術による解決なのか伝統的風土による解決なのかなど、
多くの競合と対立が見られ、
将来の食糧供給についてのビジョンとモデルが定まっていない。

本書では、これまでの食糧供給システムの支配的な考え方を
「生産主義パラダイム」。
対立する将来の食糧供給のあり方を「ライフサイエンス・パラダイム」と
「エコロジー・パラダイム」と呼んでいます。

ここで「パラダイム」という単語が出てきます。
パラダイス? オカラにダイズ? いえ、パラダイムです。

辞書には
ある時代や分野において支配的規範となる「物の見方や捉え方」
とあります。
もともとは科学分野の言葉ですが、
拡大解釈されて思想や産業や経済分野でも使われているようです。

「生産主義パラダイム」は
空前の人口増加に対応する食料と
一年中便利な加工食品を豊富に提供したが、
健康や環境への関心はわずかで
システム自体の持続可能性が危惧される…

これに対し、
ライフサイエンス・パラダイムとエコロジー・パラダイムは
ともに環境の側面を重要視しているが、
エネルギーや水などの資源の有効活用する方法が異なる…

ライフサイエンス・パラダイムはバイオテクノロジーを産業化し、
「健康」も計画的で制御可能とする…

エコロジー・パラダイムは自然をコントロールする手段として
生物学を利用すべきでない、「自然とともにが大事」と考える…

健康の面で比較すると、
生産主義パラダイムは「十分な食料供給がより重要」、
ライフサイエンスパラダイムは「個人ベースで技術的に健康が実現可能」、
エコロジーパラダイムは「多様性、地域主義により健康的状態に」。

読み替えると、
植物工場とサプリメントに命を預けるのか、
有機食品と地産地消で命をつなぐのか、
ということでしょうか。

ライフサイエンスパラダイムには
巨大企業とグローバル経済がついていて、このままでは優勢になるかも。
しかし著者は、
エコロジーパラダイムこそが強力な支持を受けるに値すると考えています。
さらに、食と健康に関する政策は、
人類が自然と一体になるためのものでなければならないと呼びかけます。
それを支えるのは食と健康をどう考えるかという
一人ひとりの価値判断(文化)というのですが、
さて、そのご覚悟はありやなしや。