のらやま生活向上委員会 suginofarm

自然と時間を、都市と生命を、地域と環境を、家族と生きがいを分かち合うために、農業を楽しめる農家になりたいと考えています

未来から見て今なにをしなければならないのか

2009年01月24日 | 農のあれこれ
「わたしたちの責任」が先日の新大統領就任演説のポイントとか。
なるほどと思いながら、
何も政治のことだけでないよなあ、農業だって…
と再認識させてくれたのがこの新書。

『野菜が壊れる』新留勝行、集英社新書0469B、08年11月、700円+税

「食事で気にすることはなんですか」という問いに
多くの人が「野菜を食べるようにしています」と答えるそうですが、
その野菜が逆に健康を脅かしているとしたら…
そんな農業の実態を問題提起してくれる一冊です。

元気に草を食べていた牛が急死する…
乳児が顔を真っ青にして亡くなる「ブルーベビー症候群」…
茶畑近くにある池の色はあざやかなコバルトブルーで強酸性。
魚はおろかプランクトンさえ生存していない…

いずれも化学肥料を大量に使用したことにより
農産物や水が硝酸態窒素汚染されていることが原因といわれます。

硝酸態窒素は体内に入ると亜硝酸態窒素に変わり
発がん性物質をつくるとされます。
EUでは野菜における硝酸態窒素含有量の基準値があり、
その値を超える野菜は「汚染野菜」として販売禁止とされるそうです。
それでも飲料水の水質基準より百倍以上の値であって
混乱を避けて現実的な数字をだしているようだといいます。
残念ながら、日本には基準値すらありません。

石油由来の化学肥料は土を殺し、
植物は正常な養分吸収ができなくなって、
傷ついた植物は虫や菌類を防ぐことができない…
そんな化学肥料と農薬の悪循環の一方で、
仕事としての農業には化学肥料と農薬は必要だ
というある種の強迫観念はどこからきたのか。

自動車のボディーとなる薄くて軽い錆びない鉄板を作る過程で
硫酸アンモニウムが生成され、それが肥料の「硫安」になる。
化学肥料が低コストででき、輸出品の目玉にもなる。
鉄鋼・自動車業界としては産業廃棄物の処理コストが必要ないばかりか
農家に売って利益にすることができる…
化学肥料は戦後経済発展の一翼を担っていたといえるようです。

他産業を育てるための国策だけでなく、
消費者からは「安く、速く、たくさん」同じ品質のものが
一年中店頭に並ぶよう求められ、
市場経済から生産効率を求められた農家は
化学肥料・農薬の使用について責められる筋合いではない
という筆者の言葉は当事者としてせめてもの救いです。

まだ間に合う。今しかない。
大事なのはつくる者としてのプライドを回復すること
という主張にもにも同感ですし、励まされます。

一般には、安全な食べ物に対して
偽装表示や残留農薬の問題がクローズアップされていますが、
一部の関係者の間では硝酸態窒素汚染の方が問題となっています。

わが家でも数年前から化学肥料を避け、
有機肥料に変えてきていますが、
農薬や化学肥料の草、抗生物質投与の家畜糞のたい肥は大丈夫なのか、
同じように化学物質に汚染された米ぬかは大丈夫なのか、
気になりだしたら何も使えません。
しまいには、何も食べることができなくなります。

それでも生きていかねばなりません。
命を引き継いでいかねばなりません。
そのために、今なにをしなければならないか。
ひとりひとりは何ができるのでしょうか。