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『鍵のかかった部屋』(読書メモ)

ポール・オースター(柴田元幸訳)『鍵のかかった部屋』白水ブックス

ニューヨーク三部作の最後の作品である。

幼なじみのファンショーが失踪した後、「書きためた原稿に価値があれば出版してくれ」というメッセージを受け取った批評家の「僕」。

出版された小説が評判になると、ファンショーから「妻と結婚してくれ」という手紙が届き、結婚する僕。

実は小説家になりたかった僕は、天才ファンショーに嫉妬しつつ、秘密を抱えたまま彼を探すという物語。

『ガラスの街』や『幽霊たち』に比べると、ストーリーが明確であるものの、やはり謎めいた作品である。

3部作に共通しているのは「自分とは何か」。次の箇所が印象的だった。

「人生が進んでゆくにつれて、われわれは自分自身にとってますます不透明になってゆく。自分という存在がいかに一貫性を欠いているか、ますます痛切に思い知るのだ。人と人を隔てる壁を乗りこえ、他人の中に入っていける人間などいはしない。だがそれは単に、自分自身に到達できる人間などいないからなのだ」(p. 96)

自分自身がよくわからないという感覚があるので、この文章は響いた。

ポール・オースターは、自分を探すために小説を書いているのかもしれないな、と思った。





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