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『潮騒』(読書メモ)

三島由紀夫『潮騒』新潮文庫

舞台は愛知の歌島

学校を卒業し漁師になったばかりの新治は、有力者の娘で、海女の初枝に恋をする(ちなみに、相思相愛)。しかし、顔役の息子である治夫も初枝を狙っているため、新治と初枝は引き裂かれそうになる。果たして恋の行方は?

天才的な筆使いは相変わらずだが、いつもの三島特有の計算的な筋立てはなく、純愛を描いているストーリーに少し驚いた。

解説を書いている佐伯氏によれば、三島作品の中でも、これほど素直な筋立ては本作だけだという。

「小説の筋立てにも、ほとんどいつも血の匂い、背徳、反逆の雰囲気が色こく立ちこめていた。異常なもの、偏奇なもの、病的なものをくり返し取り上げずにいられなかった。ところが、この『潮騒』からは、そうした一切の異様、異常なものが払いのけられている」(p. 202-203)

ちなみに、本作を引き立てているのは、新治に片思いしている、灯台長の娘・千代子である。東京の大学で学んでいる彼女は自分のことを醜いと思い込んでいて、新治と初枝の仲を引き裂く上で一役買ってしまう。

この「屈折した感情」は三島らしく、純愛物語に花を添えているといえるかもしれない。

「三島由紀夫=変人」という印象があったが、本書を読み、彼の純粋な部分に触れたような気がした。








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