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『アイヌ神謡集』(読書メモ)

知里幸惠編訳『アイヌ神謡集』岩波文庫

アイヌ民族の間に伝えられてきたユーカラを訳したものが本書。

訳者の知里幸惠さんは、この本が完成した半年後に、19歳という若さで亡くなっている。まず驚かされるのは、幸惠さんが書いた序文の美しさ。

「アイヌに生まれアイヌ語の中に生いたった私は、雨の宵、雪の夜、暇ある毎に打集まって私たちの先祖が語り興じたいろいろな物語の中極小さな話の一つ二つを拙い筆に連ねました。私たちを知って下さる多くの方に読んでいただく事が出来ますならば、私は、私たちの同族先祖と共にほんとうに無限の喜び、無上の幸福に存じます」(p. 4-5)

ここに掲載されている神謡は、動物の神が歌う形のものが多い。例えば「梟の神の自ら歌った謡」「兎が自ら歌った謡」「小狼の神が自ら歌った謡」など。本書を読むと、アイヌの方々が、動物を神様からの贈り物として大切に扱っていることが伝わってくる。「梟の神の自ら歌った謡」の一部を紹介しよう。

「私はそれを聞いてから川ガラスの若者に
讃辞を呈して、見ると本当に
人間たちは鹿や魚を
粗末に取り扱ったのであった

それから、以降は、決してそんな事をしない様に
人間たちに、眠りの時、夢の中に
教えてやったら
、人間たちも
悪かったという事に気が付き、それからは
幣(ぬさ)のように魚をとる道具を美しく作り
それで魚をとる。鹿をとったときは、鹿の頭も
きれいに飾って祭る
、それで
魚たちは、よろこんで美しい御幣をくわえて
魚の神のもとに行き、鹿たちは
よろこんで新しく月代をして鹿の神
のもとに立ち帰る。それを鹿の神や
魚の神はよろこんで
沢山、魚を出し、沢山、鹿を出した

(p.103-105)

自然に感謝しながら生活しているアイヌの方々のスピリットを感じた。こうした精神は、現代に生きる私たちにも必要になる、と思った。



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