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『星条旗の聞こえない部屋』(読書メモ)

リービ英雄『星条旗の聞こえない部屋』講談社文芸文庫

著者のリービ英雄は、ユダヤ系アメリカ人。日本人の血は一滴も入っていないにもかかわらず、日本語で小説を書いてしまったすごい人である(ちなみに「英雄」というミドルネームは、父親の日系の友人からとった名前らしい)。

本書は、著者の経験(横浜のアメリカ領事館に勤務する父親と暮らしていた頃のこと)を基にした自伝的小説である。

日本語が話せない主人公ベン・アイザックは、大学生・安藤と交流しながら、少しずつ日本の世界に入ろうとする。最も印象的なのは、家出をして、新宿の喫茶店「キャッスル」でバイトをする場面。

バイトの先輩「ますむら」に冷たくされながら、一生懸命「ますむら」の真似をし、接客を覚えようとするベン。

「ベンが中二階に背を向けた瞬間、たくさんのささやき声が起きたという気がした。階段を下りる途中で、トレイにコーヒーをのせて上がってくる「ますむら」とすれ違った。「ますむら」は黙っていた。ますむらさん、あなたになってやるぞ」(p.141)

新しい世界に飛び込むとき、腰が引けてしまうことがある。そんなときでも、一歩前に出る姿勢が大切になる、ということが伝わってくる作品である。













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