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『夜間飛行』(読書メモ)

サン=テグジュペリ(二木麻里訳)『夜間飛行』光文社古典新訳文庫

星の王子さま」で有名なサン=テグジュペリの作品。自身のパイロット経験をもとにした珠玉の一品である。

当時(1930年頃)の飛行機は性能が良くなかったために悪天候による墜落が多かったようだ。本書からは、危険を顧みず、命をかけて郵便物を運ぶパイロットのプロフェッショナリズムが伝わってくる。

なんといっても、操縦士から見た情景の描写がすごい。クライマックスの場面で、悪天候でもみくちゃにされる飛行機が、一瞬だけ乱気流から抜け出す瞬間がある。

「浮かび上がった瞬間から、郵便機は異様なほど静謐な世界のなかにあった。静けさをかき乱すひと筋のうねりさえなかった。突堤を通り抜けて湾に入ったはしけ船のように、慎み深く鎮まった水域に浮かんでいたのだ。飛行機は、空のなかの誰も知らない隠された場所に入り込んでいる。そこは至福に満ちた島々のひそかな入り江に似ていた」(p.107)

「生死のはざまの不思議な異界にたどりついてしまったとファビアンは思った。自分の両手も、着ているものも、飛行機の翼も、なにもかも光り輝いている。しかもその光は上空からではなく、下のほうから、周囲に積もっている白い雲から射してきていた」(p.107)

死を目前にしているにもかかわらず、郵便機パイロットしか知り得ない美しい世界に出会った主人公の喜びが伝わってくる。その職業でしか知り得ない歓喜の瞬間というものがあるのだな、と思った。

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