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『華岡青洲の妻』(読書メモ)

有吉佐和子『華岡青洲の妻』新潮文庫

有吉さんの筆力に圧倒され、冒頭からぐいぐいと引き込まれた。

華岡青洲とは、幕末の紀州にて、全身麻酔による乳がん手術を世界で初めて成功させた外科医である。本書は、この青洲の「妻」と「母」の骨肉の争いを描いた名作だ。

乳がんを手術するには全身麻酔が欠かせない。しかし、当時は全身麻酔などなかった。そこで、青洲は、漢方薬をもとに「通仙散」と呼ばれる麻酔薬を作ろうとする。そのための人体実験に参加したのが青洲の妻・加恵と母・於継である。

嫁入り当初は優しさに満ちていた於継だったが、青洲が修行から帰ってくると露骨に加恵をいじめ抜く(ただし、一見仲良く見せながら)。

なぜか?

息子の愛を独り占めしたいからである。いじめに対抗して踏ん張る加恵。こうした嫁・姑の争いがリアルに描かれている。ちなみに、二人が「通仙散」の実験に参加したのもバトルの一部である。

この実験の後遺症で失明してしまう加恵だが、そのかいもあって通仙散は完成する。母・於継が亡くなった後の、小姑・小陸と加恵の会話が印象的だ。

「私は見てましたえ。お母はんと、嫂さんとのことは、ようく見てましたのよし。なんという怖ろしい間柄やろうと思うてましたのよし」(p.215)

「お母はんを賢い方や立派な方やったと私は心底から思うてますよし。泥沼やなどと、滅相もない」(p.216)

「そう思うてなさるのは、嫂さんが勝ったからやわ」(p.217)

「通仙散」という画期的イノベーションが生まれるためには、青洲の努力だけでなく、ドロドロの家庭内競争も関係していたといえる。よく「内助の功」というが、「内助の功をめぐる争い」も多いのかもしれない。










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