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『マルコムX』(読書メモ)

荒このみ『マルコムX:人権への戦い』岩波新書

1950~60年代に活躍した黒人運動の指導者であるマルコムX。まず、名前に「X」が入っているところにインパクトがある。

ちなみに、この「X」は、奴隷時代の主人だった白人の姓「リトル」を捨て、自分たちが特定できないアフリカの本来の苗字を象徴するものらしい。

著者によれば、オバマ大統領の誕生には、キング牧師だけでなく、マルコムXの活動が大きく影響しているという。本書を読むと、家宅侵入罪で刑務所に入っていたマルコムXが、世界的な人権活動家になるまでの成長の過程がわかる。

マルコムXの特徴は、カリスマ的な演説の力にあるが、それが培われたのは、なんと「刑務所」であった。

もともと頭の良かった彼は、辞書を丸暗記し、英語の通信教育を受け、刑務所図書館で哲学書、文学書、宗教書、歴史書を読みまくる。さらに、刑務所内の弁論部で演説の力に磨きをかけていく。

8年間しか公教育を受けなかったマルコムだが、7年間いた刑務所が彼にとっての高校であり大学だったのだ。

その後、宗教団体「ネイション・オブ・イスラム」の伝道師として活躍するようになるマルコムは、「白人は悪魔」とののしり、黒人だけの国をアメリカに作ることを提唱する。

しかし、教祖から警戒されて、伝道師をクビになった後は、アメリカにおける黒人差別を「人権の問題」として捉え直し、「白人」を敵とするよりも、差別を引き起こす構造を非難する視点に変わっていく。アフリカ諸国を歴訪してからは視野も広がり、アフリカ諸国と共闘することで、人権問題を国連に提訴するアプローチをとるようになったマルコム。

マルコムと親しかった日系米人ユリ・コーチヤマは次のように語っている。

「マルコムがみなに教えてくれた貴重な教訓のひとつは、自分の歴史を知ることでした。自分の歴史を勉強しなさい。世界を知りなさい。そのままの自分に誇りをもちなさい。「自分が誰であり、どこから来たのかを知らなければ、将来どっちに向かっていけばいいかわからないじゃないか」とマルコムはよく言っていました」(p.224)

歴史を理解した上で、人間としての自己や他者を尊重することを訴えたマルコムXの考えは、今の時代こそ大切になると感じた。







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