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『柳宗悦』(読書メモ)

中見真理『柳宗悦:「複合の美」の思想』岩波新書

民芸運動の創始者としての柳宗悦は知っていたが、こんなにスケールの大きい活動をしているとは思わなかった。

もともと宗教哲学者だった宗悦だが、西欧やアジア諸国と比較したときの日本の独自性とは何かについて考える。しかし、優れていると思っていた日本美術が中国・韓国の模倣であるとを感じ悩む宗悦。

そんなときに、無名の工人が作る陶磁器、布類、木工品の中に「日本独自の美」を見いだす。その根本にあるのが、人それぞれの持つ個性が寄り集まって「美」を作り出すという「複合の美」の概念である。

各々のものが各々の独創に活き」「互いが寄与し合ってこそ世界の文化は進む」という思想だ(p.182)。

第一次世界大戦後から、一貫して戦争に反対している宗悦さんは、宗教についても「複合の美」を強調する。つまり、いろいろな宗教があるけれども、その目指しているところは同じではないか、という考えだ。

「「われわれが登ろうとめざしている頂きは普遍的な『一つ』のもの」である。しかし、「その頂きに至る道は『多数』ある。(中略)つまり柳は、異質なそれぞれの宗教、宗派を、同じ山の頂にいたる異なった道としてとらえていた。どの道を選ぶかは、その人の性格や外的環境等の偶然によって左右される。したがってどの道を選んでもよい。大事なことは頂上を極めることである」(p.196)

本書を読んで感銘を受けたのは、宗悦さんが、異質なもの、世間的には「下」とみなされている者から学ぼうとする姿勢である。

「異質なものから学ぶためには「受け取り手の名人」になる必要がある。そしてよく受けとめるためには、できるだけ自己を無にする必要がある」(p.199)

ひとりひとりが持つ個性を重んじる「複合の美」の背景には、自己中心の考えからの脱却がある、と感じた。


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