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『陰翳礼讃』(読書メモ)

谷崎潤一郎『陰翳礼讃』中公文庫

タイトルから判断すると、ドロドロしたことが書いてあるかと思ったが、中身はけっこうあっさりしたものだった。昭和5年~10年に書かれたエッセイが中心なのだが、古さを感じさせないところが不思議である。

この本の中によく出てくるのが「厠」の話

「漱石先生は毎朝便通に行かれることを一つの楽しみに数えられ、それは寧ろ生理的快感であると云われたそうだが、その快感を味わう上にも、閑寂な壁と、清楚な木目に囲まれて、眼に青空や青葉の色を見ることの出来る日本の厠ほど、格好な場所はあるまい。そうしてそれには、繰り返して云うが、或る程度の薄暗さと、徹底的に清潔であることと、蚊の呻りさえ耳につくような静かさとが、必須の条件なのである。私はそう云う厠にあって、しとしとと降る雨の音を聴くのを好む」(p.11-12)

いまどき、このような贅沢な厠は少ないが、よく考えてみると、薄暗いトイレは気持ちが落ち着くものである。自宅にはトイレが二つあるが、よく使うのは照明が暗いほうだ。

谷崎さんが言うように、日本人は本来、薄暗い場所が好きなのかもしれない。照明をおとした隠れ家的な飲食店も人気があるようだし。

たまに行く小樽のバーに「デスペラ」という店があるが、ここなどは、カウンターだけの小さな店だが、薄暗くて、妙に意心地の良い店である。

十数年前に家を建てたとき、リビングの照明が暗いことに気づいたが、今考えると、これはこれで良いのかもしれないと思った。



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