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『復活』(読書メモ)

トルストイ(木村滋訳)『復活(上下)』新潮文庫

一度読んで挫折しかけたのだが、年末から正月にかけて根性で読みすすめたところ、途中から面白くなった。

主人公であるネフリュードフ公爵は、若い時に、叔母の家で女中をしていたカチューシャ(マースロワ)を犯し、見捨てた過去を持つ。あるとき陪審員として参加した裁判で、娼婦となったカチューシャが殺人の罪(本当は無実)で裁かれていた場面に出会う。自分の罪を償うため、彼女に結婚を申し込むもののはねつけられるが、徐々に二人の距離は縮まっていく、という筋書きである。タイトルにあるように、ネフリュードフとカチューシャが、堕落していた生活から復活を遂げるプロセスが描かれている。

本書は、トルストイが晩年に書いた長編だが、「革命前のロシアの体制批判」が半分くらい書かれているのでチョット堅めである。さらに、主人公ネフリュードフは私有財産を否定し、自分の領地を全て農民に返そうとする。寝ていてもお金が入ってくる身分を捨て、牢屋に入っている女性と結婚しようとする筋書きに、やや不自然さを感じたのだが、途中からだんだんと迫力が増してきた

解説を読んでみて、なぜ本書に迫力があるのかがわかった。それは、本書の内容は、かなりの程度、トルストイ自身の体験をベースに書かれていたからである。トルストイは、死ぬ直前、自分の伝記作家に次のように語ったという。

「君は私についてよいことばかり書いている。それは正しくないし、不十分だ。悪い面も書かなくてはいけない。若いころ、私はとてもひどい生活を送ったものだが、当時の生活で特に二つの事件が今もなお私の心を苦しめている。いま私は伝記作者としての君にこのことを告白して、君が私の伝記のなかにそれを書くようお願いしておく。その一つは、私が結婚前に、持ち村の百姓女と関係していたことだ。この件については短編『悪魔』のなかにヒントがある。第二の件は、私が叔母の屋敷にいたガーシャという小間使いを犯した罪である。彼女は純潔な処女であったが、私が誘惑したために、叔母の屋敷を追われ、身をもちくずしてしまったのだ」(p.488-489)

この本は、トルストイが自分の罪を告白し、それを小説の中で解消しようとした作品だったのだ。トルストイの葛藤が伝わってきて、読者が持つ罪の意識をもゆさぶってくる本書は、やはり名作だと思った。



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