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『菊次郎とさき』(読書メモ)

ビートたけし『菊次郎とさき』新潮文庫

毎週、読書メモを書いているが、実は、感想を書きたいと思う本は2冊に1冊くらいの割合であり、あまり多くはない。

先日、ビートたけしさんの『菊次郎とさき』を読んだ。とても面白かったのだが、あまり読書メモを残そうという気持ちにはならなかった

もちろん、お母さんのさきさんのエピソードはめちゃくちゃインパクトあるし、感動するのだけれども、改めて何かを書き残すという気にならなかったので、そのままにしておいた。

で、何日か経って、フッと思い浮かんだのが、たけしさんのお父さん菊次郎さんのこと。菊次郎さんは、ペンキ職人なのだが、小心者で、お酒が好きで、家で暴れてさきさんに暴力をふるい、家にお金も入れないし、授業参観には酔っ払ってやってくるし、家族の中でのけ者扱いされているような、ある意味、どうしようもないお父さんである。

お兄さんの大さんも「正直、オヤジに関しては、申し訳ないんですが、あんまりいい思い出がないんですね」(p.123)と言っている。

しかし、そんなダメ親父である菊次郎さんなのだが、妙に心に残るのである。特に、読んでから3日くらい経って心に迫ってきたのは次の記述であった。

「でも、最近ふと、オヤジはよくおいらに笑いかけていたような気がすることがある。声をかけてもらった記憶はほとんどない。でも、ニヤッと笑ったオヤジの顔ならいくつも思い浮かべることができる。仕事を手伝っている時、ペンキを塗っているおいらを見て笑った顔。信濃屋に迎えに行った時の嬉しそうな顔。そんな顔をなぜか時々、思い出すようになった」(p.95)

本書をよく読んでみると、あんなにダメ親父なのに、子どもたちはよくお父さんの仕事を手伝っている。

「おいらも下の兄貴と一緒に、よく手伝わされた。中学の頃は、日曜日には野球をやりたくてたまらないのに朝、寝ていると兄貴に叩き起こされる。「たけし、起きろ。父ちゃんの仕事だぞ」(p.85)

お父さんが亡くなる前には、家族がかわるがわる病院に泊まり込み看病している。「バカヤロウ、俺を何だと思ってる」「オレは武の親だ、このヤロウ」というお父さんのセリフは、たけしさんの口癖そのものである。

かっこよくなくても、尊敬されていなくても、どんなにメチャクチャでも、お父さんは子どもを教育しているんだな、と思った。

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