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『大山倍達正伝』(読書メモ)

小島一志・塚本佳子『大山倍達正伝』新潮社

大山倍達といえば、「空手バカ一代」で有名な極真空手の創始者。

東京生まれの大山は、軍隊に入隊して終戦を迎えた後、日本空手選手権を制覇し、アメリカに渡ってプロレスラーに連戦連勝。1年半におよぶ山籠り修業によって、牛をも殺す必殺拳を身につけた、と伝えられている。こうした「大山倍達伝説」を検証したのが本書。

はたして、伝説は本当だったのか?

本書によれば、ほとんどが嘘だという。韓国出身の倍達は、18歳のときに日本へ密航した後、山梨航空技術学校を卒業するものの軍隊には入っていない。日本選手権も存在しないし、アメリカでプロレスラーと戦ったという記録もない。長期の山籠りもしておらず、牛の角は折ったが、殺すことはできなかった。

倍達は、自らを日本人と偽り、伝説を作り上げた上で積極的にマスコミに流したのだ。「伝説というのはね、いかに大きな嘘をついたかに価値があるんだよ」と主張する倍達のメディア戦略はすごい。

では、大山倍達は弱いのか?

この本を読んでビックリしたのは、倍達が、伝説を超える「修羅場」の中で空手を磨いていたことだ。終戦後に激化した在日の韓国人と朝鮮人の血で血を洗う抗争の先頭に立ち、喜々として争いに明け暮れた数年間は凄まじい。アメリカでは、ATショーと呼ばれるサーカスのような見世物で、本格プロレスラーが素人の挑戦を受けるコーナーに出場し、レスラーをやっつけて賞金を稼いでいたらしい。

自分のことしか考えない超個人主義でありながら、礼節を重んじ礼儀正しい一面を持つ倍達。伝説をでっち上げていたが、いろいろな本で書く伝説が食い違うワキの甘さとテキトウさが愛らしい。

そして、なんといっても「私はね、世界一の超人になりたかったんです。空手のみならず、すべての格闘技の猛者と戦っても一撃で屠る、世界に一人しかいない超人だよ。きみー。」という異様なほどの情熱。

世に名を残す人というのは、「狂人に近い熱意」と「人に愛される人間性」を持っているんだなと感じた。

なお、600ページを超える本書は人間・倍達を描いた第1部と、空手人・倍達を伝えた第2部に分かれているが、おススメは在日韓国・朝鮮の方々の歴史書としても読める第1部である。


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