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私の存在

昨日紹介した『半生の記』の中で、松本清張氏は軍隊生活を、次のように振り返っている。

「この兵隊生活は私に思わぬことを発見させた。「ここにくれば、社会的な地位も、貧富も、年齢の差も全く帳消しである。みんなが同じレベルだ」という通り、新兵の平等が奇妙な生甲斐を私に持たせた。朝日新聞社では、どうもがいても、その差別的な待遇からは脱けきれなかった。歯車のネジという譬はあるが、私の場合はそのネジにすら価しなかったのである。ところが、兵隊生活だと、仕事に精を出したり、勉強したり、又は班長や古い兵隊の機嫌をとったりすることでともかく個人的顕示が可能なのである。新聞社では絶対に私の存在は認められないが、ここではとにかく個の働きが成績に出るのである。私が兵隊生活に奇妙な新鮮さを覚えたのは、職場には無い「人間存在」を見い出したからだった。」(p.97)

軍隊というと非人間的なイメージがあるが、清張氏から見れば、逆に企業の方が非人間的であった。

「私の存在」が認められることこそ、やりがいや生きがいの源泉なのだろう。

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