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町工場の技術伝承

中小企業の7割は技術伝承がうまくいっていないらしい。なぜなら、短納期で低価格の製品を作ることを求められるため、社員教育の時間がなかなか取れないからだ。「技は盗むもの」という職人の意識も障害となっている。

そんな中小企業の技術伝承をサポートするのが、東大阪にある「技能伝承支援NPO」だ。東大阪市や民間企業が共同で設立し、職業訓練大学校の教員やメーカーのOBが、中小企業をカスタムメイド的にサポートする。

ただし、NPOのスタッフは直接技能を教えることはしない。技能を伝承する「方法」をサポートするだけだ。方法は大きく2つある。第1に、「整理整頓」によって作業のムダを省き、教えるための時間を生み出すこと。第2に、熟練技術者が持つノウハウを「作業の教科書」として見える化することだ。

社員50名の油圧プレス機メーカーでは、ある熟練技術者が定年退職したあと、100分の1の精度が求められるねじ加工をできる技術者がいなくなり、会社の危機に立たされたという。NPOが薦めたのは、定年退職した技術者を先生役として再雇用すること。

NPOスタッフは、この技術者の作業を観察し、「作業分解シート」に沿って詳細な手順や急所と呼ばれるポイントにまとめた。具体的な数値を盛り込み、技術者が作業している様子を写真に撮って載せる。この「作業の教科書」を用いて、ベテラン技術者が28歳の若手に教えたところ、難易度の高い加工も「時間をかければ」できるようになったという。あとは何度も繰り返してスピードや精度を高めればよい。

NPOの事務局長によれば、ベテラン技術者の教える意欲をいかに高めるかという点が大切になる。そのため、「あなたを社内講師に委嘱します」という辞令を社長が渡し、手当てを支給することが有効となる。もしお金がなくても、作業棒に線を入れてマイスターだとわかるようにすることだけでも、技術者に誇りを与えることができる。

面白いのは、生産現場の技術伝承に触発されて、営業部門でも先輩が新人に教えるようになったというケース。営業に必要なスキルを100項目リスト化し、ロールプレイングなどを通して若手営業マンに営業スキルを伝授したところ、新規顧客につながったという。

NPOの事務局長は、次のように述べている。

「ベテランは、人に教えることで気分が良くなり、若手はスキルがあがれば上を目指そうという気になる。社内の教育訓練がすすむとコミュニケーションがすすみ、社内に活気がでてきます。」

個人的にいえば、手取り足取り教えることに多少の抵抗感があった。しかし、よく考えると熟達者の暗黙知は完全に形式知化できない。実地の指導を合わせても、せいぜい50%程度しか伝えられないだろう。あとは、本人の努力と創意工夫が必要となる。そのためには、仕事の魅力や意義を若手に気づかせることが大切になると思った。

出所:NHKビジネス未来人2007.1.19「町工場の技術伝承をお手伝い」
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