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ラーニング・ラボ

松尾睦のブログです。書籍、映画ならびに聖書の言葉などについて書いています。

岩波書店のすごさ

2018年09月28日 | その他
『改訳 愉しき放浪児』(アイヒェンドルフ、関泰祐訳、岩波文庫)の「改訳」がいつだったのかを調べたら1952年であった。

ちなみに、第1刷が発行されたのが1938年(昭和13年)である。

2015年の時点で16刷なのだが、80年間も本書が読まれていることに驚くと同時に、長きにわたって出版し続けている岩波書店のすごさを感じた。


葉隠

2018年08月23日 | その他
ANAの機内誌『翼の王国』(2018年8月号)で「葉隠」が紹介されていた。

「葉隠」とは、江戸中期の佐賀藩で藩主に仕えた山本常朝が隠居後に書き残したもの。武士のあるべき姿が全11巻(1340項目)に収められている。現在、世界14~15か国で翻訳され、故スティーブ・ジョブズも影響を受けたらしい。

この記事の中で印象に残ったのが次の項目。

「人生一生は、誠にわずかの事なり。好いた事をして暮らすべきなり
「しかしこの事は、うまく伝えないと害になるので、若者には言ってこなかった」

なんだかわかる気がする。

「好きなことをやるべき」という考え方は、いろいろと経験した後にその神髄を理解できる言葉のように思うからだ。

自分のキャリアの軸(大事にしたい価値観)をキャリアアンカーと呼ぶが、自分のアンカーを適切に認識するには10年以上かかると言われているのと同じかもしれない。

出所:『翼の王国』2018年8月号, p. 74-75.

残酷である理由

2018年08月16日 | その他
『眠れる森の美女』の「訳者あとがき」に、つぎのような解説がある。

「この当時、宮廷や貴族の邸宅で催されたサロンでは、人々は洗練された会話を楽しみながら、詩の朗読やさまざまな文芸遊戯に興じたが、お伽噺を即興的に脚色して語り聞かせるというのもそのひとつだった」(p.165-166)

著者ペローは、17世紀フランス王室の高級官僚だったらしく、この種のサロンに通っていたという。

『眠れる森の美女』に収められている作品のストーリーが、残酷である理由がわかった。

出所:シャルル・ペロー(村松潔訳)『眠れる森の美女』(新潮社)

自分の芸風を作り上げる

2018年08月03日 | その他
医療マネジメントの研究者である島津望先生(北海商科大学)に『医療プロフェッショナルの経験学習』を謹呈したところ、興味深いコメントをいただいた。

本書では、分野にかかわらず、11年目以降に、「挑戦的な経験」を通して自身の能力に磨きをかけることの重要性が明らかになったが、これは落語の世界と似ているというのだ。

落語の世界では、10年目くらいまでは前座、二つ目の修行をして、おおよそ10年で真打ちになる。名人と呼ばれるためには、真打ちに昇進した後に研鑽を積み、独自の解釈と表現方法を自分のものにしなければならない。現在、真打ちはたくさんいるが、本当に名人と言える噺家は、真打ち昇進以降も深化を続けている人達らしい。

さらに、「徒弟的学習」「集団的学習」「ネットワーク学習」も、「師匠から対面で稽古をつけてもらう」「一門の勉強会」「他の一門の師匠や噺家との交流」というように、対応しているとのこと。

島津先生のよれば、さまざまな学びを経て「自分の芸風を作り上げる」ことが大切になる。

このコメントをいただき、「自分の芸風は何だろうか?」と思った。

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成長プロセスの共通性

2018年07月30日 | その他
『医療プロフェッショナルの経験学習』を編集していて面白かったことは、大きな視点で見ると、医療でも、民間企業でも、プロフェッショナルへの成長プロセスは共通していた、ということ。

最初の10年間において「鍵となる経験」から基盤となる能力を身につけ
11年目以降に、「挑戦的な経験」を通して自身の能力に磨きをかける
という点は、医療技術者、営業担当者、IT技術者、企業管理職に共通して見られる特徴である。

なお、他者からの学びについては、次の3パターンが見られた。
1対1の指導(徒弟的学習)
集団における学び合い(集団的学習)
組織を越えた学び合い(ネットワーク学習)

例えば、医師は「1対1の徒弟的関係」から学ぶ傾向があり、看護師や放射線技師は「集団(職場)における学び合い」によって成長し、職場に同職種がいない保健師は、「組織を越えた学び合い」の場が重要な役割を果たしていた。なお、ベテランになるにつれて「組織を越えた学び合い」が成長の源泉となる傾向が見られた。

「役割」「勤務状況」「キャリア段階」によって、他者からの学び方が異なるが、こうしたプロセスは、民間企業においても見られる特徴である。

つまり、大きくとらえると「プロフェッショナルの成長プロセス」には共通性があり、細かく見ると職種毎の違いが見られる、といえる。

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新刊のご案内『医療プロフェッショナルの経験学習』

2018年07月26日 | その他
この度、同文館出版より『医療プロフェッショナルの経験学習』を出版することができました。

本書は、12名の研究者の方々とともに書いたもので、看護師・保健師・薬剤師・診療放射線技師・救急救命士・病院事務職員・救急救命医師・公衆衛生医師の成長プロセスを、「経験学習」という切り口から分析しています(第9章には、病院長がいかに組織をマネジメントしているかについての研究も収められています)。

本書の基本的な問いは「各分野の医療プロフェッショナルは、キャリアの各段階で、どのような経験から、いかなる能力を獲得しているのか」というものです。

分析の結果、大まかな発見としては、次の2点が明らかになりました。

(共通点)各プロフェッショナルは、キャリア初期(最初の10年間)において、「カギとなる経験」をとおして基盤となる能力を身につけ、キャリア後期(11年目以降)に、「挑戦的な経験」をとおして学習を深めていた。

(相違点)ただし、キャリア初期における「カギとなる経験」、およびキャリア後期における「学習課題」は、職種によって異なっていた。

つまり、就職してから最初の10年でプロとしての基礎をつくり、11年目以降にプロとしての能力を深めている点は、職種が違っても同じなのですが、最初の10年に積むべき経験の内容や、11年目以降に直面する課題は職種によって異なっていました。

医療職の方は、本書を読むことで、他の医療職がどのように成長するかを知ることができ、より質の高いチーム医療を実践できるようになると思います。医療職ではない方は、本書を通して医療の深い世界を知ることができるでしょう。

各章には必ずインタビューデータが含まれていますので、その部分を読むだけでも、深く広い医療の世界を味わうことができると思います。是非ご一読ください。

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こうありたいという気持ち

2018年07月12日 | その他
友情や家庭愛などヒューマニズムに満ち溢れている『ヒューマン・コメディ』だが、解説を読み少し驚いた。

なぜなら、作者のサローヤンは、家庭内暴力をふるい、離婚を繰り返し、賭博癖があった人物だからである。

訳者の小川さんは次のように述べている。

「彼の代表作とされる初期作品の多くが示すのは、純粋無垢な少年像であれ、愛に満ちた家庭像であれ、思い出というよりは見果てぬ夢の結晶であり、実人生の欠落をおぎなう想像力によってこそ像を結ぶ抒情的陰画なのである」(p.344)

これは研究者についてもいえる。

顧客志向のない人がマーケティングを研究し、人材育成が苦手な人が人材育成を研究するケースもあるからだ。

自分ではできないが「こうありたい」という気持ちが創造の源になることもあるのだろう。



尊敬・応援・伴走

2018年05月21日 | その他
元編集者で小説教室講師の根本昌夫さんは、たくさんの小説家を育てている。今年の芥川賞を受賞した二人も根本さんの教え子である。

いったいどんな教え方をしているのか?

日経新聞記者によれば、根本さんの小説教室は次のような雰囲気らしい。「平日の夕方、都内の教室をのぞいた。生徒が作品を批評し合い、最後に根本さんが口を開く。「うまいねえ」「新人賞とれるよ」。ひとしきり褒めた後、思い出したように「最後はちょっとこうしたら」。優しい口調に場が和む」

基本的には「強みを伸ばし」「改善点を示唆する」指導のようだ。根本さんの信念にも感銘を受けた。

「編集者が作家を育てるのではない。応援して伴走するのが仕事」「生徒も書き手としてリスペクトしている」

相手を「尊敬」しつつ「応援」「伴走」するという指導は、ある意味、究極の方法である。

上司ー部下、教師ー生徒の関係においても目指すべき方法だと思った。

出所:日本経済新聞2018年5月20日







自分らしい人生

2018年05月04日 | その他
今日、スポーツジムのランニングマシンでウォーキングしながら、『辰吉家の常識 世間の非常識』(NHK)を観たのだが(どうも再放送らしい)、これがまた凄い番組だった。

47歳の辰吉丈一郎は9年間試合をしていないけれども、なんと現役続行中であり、毎日練習を欠かさない。

スポーツ・ジャーナリストやボクシング雑誌編集長によれば「試合をするのは自殺行為」とのこと。しかし、そんなことはお構いなしにチャンピオンを目指す辰吉さんと、彼を支える妻るみさん。

ちなみに、辰吉さんはろれつが回っておらず「大丈夫?」という感じだったが、そんな彼を大阪弁で叱り飛ばするみさん(かなりの毒舌家)。

ただ、「るみは、ただ居てくれればいい」と語る辰吉さんと、「自分のやりたいことをしている辰吉を見ているのが嬉しい」と言うるみさんを見ていて、実は二人が一心同体であることが伝わってきた。

たぶん辰吉さんは、るみさんがいるからこそ「自分らしく」生きられるのだろう。

自分らしい人生を送るためには、それを支えてくれる人が必要であることがわかった。

「まじめさ」と「勤勉さ」

2018年04月26日 | その他
カナダ生まれのグリズデイル・バリージョシュアさんはウェブ・デザイナー。脳性麻痺のために電動車椅子を使用しながら日本で生活している。

グリズデイルさんは19歳のときに、初めて日本を訪れたのだが、その当時はエレベーターが設置されていない駅が多かった。

しかし、このときは、駅員6人がかりでグリズデイルさんを車椅子ごとホームまで運んでくれたらしい。この体験がグリズデイルの心に響いた。

「日本人は、職務に対して真面目で、責任感が強いと思います。また、おもてなしの心や誰もが親切な点も素晴らしい。私は日本に恋をしました」(p.34)

この記事を読み、「まじめさ」や「勤勉さ」を失わないように、日本企業の働き方を進化させる必要がある、と思った。

出所;グローバルエッジ No.53, p.34