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ラーニング・ラボ

松尾睦のブログです。書籍、映画ならびに聖書の言葉などについて書いています。

現場の空気を感じながら学ぶ

2013年07月09日 | 組織・職場の学習
厳しい小売業界にあって、増収増益を続けるスーパー「ヤオコー」では、毎月、店長塾が開かれているという。その内容について川野幸夫会長は次のように述べている。

「ヤオコーが目指す「豊かで楽しい食生活とはこういうものだ」と店長が理解するには、それがきちんと実現できている店で勉強するのが近道です。そこで、店長塾では店長たちを成功しているお店に派遣。一日売り場を見てもらって、疑問点や気づいたことをその店舗の店長にぶつけてもらう。こうすれば、漠然としていた目指す店舗の姿を、具体的に理解できます」(p.75)

これは優れた方法である。他の業界でも応用できそうな気がした。

マネジャーを教室に集めて成功事例の発表を聞く、という研修がよくあるが、今ひとつ臨場感がないし、頭でわかっても身体で理解できていないことが多いのではないか。

現場へ行って、その場の空気を感じながら、意見を交換し、優れた点を学びとること。これが他者から学ぶために有効である、と思った。

出所:日経ビジネス2013年6月24日号、p.72-75.


ダブルバインド

2013年07月05日 | 組織・職場の学習
劇作家・演出家の平田オリザさんによれば、現在の日本企業では、ダブルバインド(二つの矛盾した命令を受け取った人がその間で悩む状況)が存在するという。特に、若手社員がその状態に置かれている、と以下のように指摘する。

「現在、表向き、企業が新入社員に要求するコミュニケーション能力は、グローバル・コミュニケーション・スキル=異文化理解能力です。つまり、異なる文化背景や価値観をもっている人に対して、自分の主張を伝えることができること」

「ですが、日本企業では、知らず知らずのうちにもう一つの能力を若い人に求めている。それが『上司の意図を察して機敏に行動する』『会議の空気を読んで、反対意見を言わない』というような従来型のコミュニケーション能力です。若い人たちは、この『異文化理解能力』と日本型の『同調圧力』の狭間でがんじがらめになっているのではないでしょうか」

これは鋭い指摘である。若い人に限らず、その組織の中には「反対してはいけない事柄」が暗黙のうちに存在する。本当は「それって違うんじゃないですか」と主張したいところだが、なかなか言い出せない。

批判的コミュニケーションが可能となるためには、①ダブルバインドが存在することを意識化し、②リーダーが率先して批判的意見を出させ、それを受け入れる必要があるのだろう。

出所:ビッグイシュー日本版217号(2013年6月15日)p.13.

いいお客さんに鍛えられる

2013年06月21日 | 組織・職場の学習
ANAの機内誌『翼の王国』に、神保町の古本屋さんの記事が載っていた。

江戸時代の和本を全て揃えている「大屋書房」と並んで紹介されていたのは、ファッション、サブカルチャー、アート関連の雑誌1万冊を扱う「magnif」。

「既存のライバル店の多い神保町になぜ出店を?」というライターさんの問いに、店主の中武さんは次のように答えている。

「神保町は僕にとっては『本のデパート』みたいな感覚。いいお客さんがたくさん集まってくる、勉強させてもらえる場所だから

営業の世界では、お客さんに育ててもらう、という言葉を聞くが、これはすべての商売について言えるような気がする。

「いいお客さん」と出会い、鍛えられることで人は成長するのだろう。

出所:翼の王国528号(2013年6月号), p.49

反対意見を大切にする

2013年06月14日 | 組織・職場の学習
湯浅誠さんは、ホームレス支援などの反貧困の問題と戦ってきた市民運動家である。

運動家であるがゆえに反貧困に向かって突き進んできた湯浅さんだが、ある経験をきっかけに考え方が変わったらしい。その経験とは、内閣府参与として国の立場で働いた2年間である。

「参与の経験が大きかったのは、自分とは異なる反対意見に直面したことでした。もちろん、それまでも反対意見に出くわすことはありましたが、民間の活動は基本的に寄付者も含め賛同者だけで運営されるので、つまるところ自分たちの活動とは直接関係なかった。ところが、公的な政策づくりの場合は、反対意見の人の税金も使うわけだから、いかに意見を調整して合意を取りながら1歩でも半歩でも前に進めるかということが課題になる」(p.16)

本気で問題を解決しようとしたら、「俺の言うことを聞け」と主張するだけでなく、反対している人の意見を真摯に聞いて対話していかねければならない。それが民主主義である、と湯浅さんは言う。

「そもそも民主主義というのは、おそろしく面倒くさくて、うんざりして、そのうえ疲れるものだということを直視するところから始める必要があると思うんです」(p.17)

我々は、何かを変えようとするときに、反対する人々のことを「抵抗勢力」と位置づけて、「困った人たち」と思いがちである。しかし、それはよく考えると危険な思考なのかもしれない。反対意見の立場に立って、粘り強く対話することが制度的なイノベーションにつながるのだろう。

反対意見を大切にすることを忘れてはいけない、と思った。

出所:ビッグイシュー日本版216号(2013.6.1)p.16-17.




リーダーシップと人間的魅力

2013年05月17日 | 組織・職場の学習
『大統領でたどるアメリカの歴史』を読み、44人のアメリカ大統領の中で最も魅力を感じたのは、フランクリン・ルーズベルトである。

大恐慌が深刻化していた1933年に大統領に就任したルーズベルトは、100日の間に一連の緊急策を打ち出し、危機に瀕したアメリカを救う。いわゆるニューディール政策である。

単にスピーディというだけでなく、アメリカ経済を根本から再生させる戦略を持っていたという点が重要である。彼の政策によって雇用が創出され、アメリカの中間層が厚くなったという。

また、就任から1週間後、当時ラジオが家庭に普及していたため、不安におののく国民に直接語りかけ、自信に満ちた声によって安心させている。ポジティブさもリーダーにとって大切な条件である。

驚いたのは、彼が30歳のときに小児マヒにかかり、車いす生活であったこと。テレビがなかったのは幸運だったかもしれない。ルーズベルトは、演説のときには足を固定させたりしながら、障害があることを国民に知らせなかった。

偉かったのは、当時のジャーナリストである。決して車いす姿の大統領を写真に撮らなかったらしい。すぐに揚げ足を取る今のジャーナリストとは大違いである。 

能力も大事だが、リーダーシップの決め手は人間的魅力だな、と感じた。

出所:明石和康『大統領でたどるアメリカの歴史』岩波ジュニア新書


OJT、OJD、OJE

2013年05月11日 | 組織・職場の学習
OJTは、On-the-Job Training(オン・ザ・ジョブ・トレーニング=職場における訓練)の略である。

OJTは、「新人や若手の育成」という狭い意味で使われることが多い。しかし、OJTはマネジャーにとっても重要である。なぜなら、マネジャーの成長の大半は、職場における経験によって決まるからである。

OJTという言葉のかわりに「OJD(On-the-Job Development)」「OJE(On-the-job Experience)」という言葉を使っている会社もあるが、これはとても良いことだ。OJTのイメージが変わり、若手だけでなく、中堅やマネジャーの育成を含む概念になるからである。

OJTを職場に浸透させる上で、言葉の使い方も大切になる、と思う。

女子バレーチームのKPI

2013年04月27日 | 組織・職場の学習
2012年のロンドンオリンピックで女子バレーボールチームに銅メダルをもたらした眞鍋政義監督。iPadを手にしたIDバレーは有名だが、その戦略と日々の練習がよく考えられている。

高さとパワー(ブロック、アタック)では海外チームには勝てないため、日本が得意な「攻撃を何度も拾って戦う力」を磨くという戦略をとった真鍋監督。そして、ロンドン五輪でメダルを獲得するためのKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)として以下の4点を決めた。

1)サーブレシーブ 
2)サーブ 
3)ディグ(スパイクレシーブ)
4)失点の少なさ 

チームにはアナリスト(分析担当者)がいて、世界ベスト10チームのデータを収集・分析しているらしい。これら4つのKPIで世界1位をとればロンドン五輪でメダルがとれると真鍋監督は考えた。

しかし、一挙に1位をとることはできないので、2012年のロンドン五輪から逆算して年ごとの目標を立てた。

例えば、2010年は世界選手権で3位に入ることを目標にした。この大会では実際に3位に入り、ディグが世界1位になる。4つの指標のうち一つが1位になっただけで3位になれたのだから、4つとも1位になれば確実に五輪メダル圏内である。

練習では目標KPIに到達するために工夫をこらした。例えば、実践形式の練習ではKPIを算出し翌日に一覧できるように張り出し(達成した数値は黄色、満たしていない数値は赤で表示)、数値に基づいてグループやポジション毎に話し合い課題克服に取り組んだ。まさにPDCAを回していたのだ。

そして2011年には4つのKPIで1位になり、見事ロンドン五輪でメダルを獲得した女子バレーチーム。

ただ単に「メダルをとるぞ!」という意気込みだけでは限界がある。明確で適切な戦略とデータに基づく練習が高い成果に結びつくといえる。KPIの活用の仕方について、とても参考になる事例だと思った。

日経情報ストラテジー December 2011, p.28-31

ばか者、よそ者、若者

2013年04月18日 | 組織・職場の学習
DOWAホールディングス相談役の吉川廣和氏は、社長・会長時代に大胆な組織改革を実施した時期を振り返り、次のように語っている。

「改革の原動力として3つの"はみ出し者"の存在が挙げられます。ばか者、よそ者、若者です。古い社風に反旗を翻したばか者たち、中途採用した異文化のよそ者たち、情熱と新鮮な感性を持つ若者たち。彼らに共通するキーワードは「非常識」です。旧来のマネジメントの常識への同化を拒否し、新しい理念と行動を提供してくれました」

組織学習論では、従来の前提を疑い、既存の枠組みを変革していくことをダブルループ学習と呼ぶ。吉川氏の指摘は、このダブルループ学習を推進するためには、既存の枠に囚われない「ばか者、よそ者、若者」といった非常識グループを形成、支援、育成してきたのだ。

しかし、改革を進めると、反対勢力から「裏に回って非難や非協力が執拗かつ長期的に繰り返される」という。経営者は、「時間をかけて挑戦を支援し続けるしかない」と吉川氏は述べている。

非常識グループ」は自然と形成されるとは思えない。経営者が意識して取り組まなければならない課題である、と感じた。

出所:日経ビジネス2013年3月25日号p.150

3つの質問

2013年04月10日 | 組織・職場の学習
ルノーの元会長であるルイ・シュバイツァー氏は、フランスの官僚だったころ、職員6万人からなる医療福祉機関を立て直した実績を持つ。

はたして彼はどのような手法を使ったのか?

赴任したシュバイツァー氏は、はじめの数ヶ月間、医師、看護師、事務職員と個別面談を行い職場の問題を把握することにつとめたという。そのときの面談はシンプルである。

「何をしたいのですか」
「障害は何ですか」
「どうやったら解決できると思いますか」


という3つの質問をし、1時間程度じっくりと相手の話を聞くことを繰り返したのだ。

ルノー出身のゴーンさんも、日産を立て直すときに同じ方法を用いたらしい。

この3つの質問の良いところは、相手の意向を尊重しているところだ。押しつけがましいところがない。マネジャーの役割は、現場の人々の思いをくみ取り、障害をなくす手助けをすることにあるというメッセージが伝わってくる。この質問は、さまざまな場面で活用できると感じた。

出所:日経産業新聞2012年12月6日, p.18


未来志向で叱る

2013年03月28日 | 組織・職場の学習
人材コンサルタントの田中淳子さんと情報交換をしていたときに良いフレーズに出会った。それは「未来志向で叱る」という言葉だ。

子どもや部下を叱ることは、彼らを成長するために大切なこと。しかし、叱り方によって、彼らのモチベーションが上下する。

悪い叱り方は、「過去志向の叱り方」。

「なんでそんなことしたんだ」「そんなことしちゃだめじゃないか」

良い叱り方は「未来志向」である。

「こうするともっと成長するよ」「この点を注意すると良くなるよ」

同じことを言われても、未来志向だとやる気になる。しかし、未来志向で叱ることはなかなか難しい。つい過去志向になってしまう。たぶん、怒っているからだろう。人を責める気持ちが強いと過去志向になるような気がする。

叱る前に「過去志向の表現から未来志向の表現へ翻訳する」ことが大切なのかもしれない。