拝島正子のブログ

をとこもすなるぶろぐといふものを、をんなもしてみむとてするなり

昔昔(ルネサンス・バロックとスターウォーズ)

2023-01-15 09:47:04 | 音楽

(承前)ルネサンス期に続くのがバロック期。「いびつな真珠」という言葉はやはり美術から来たそうな。なるほど、ルーベンスが描く人々は皆がてんこしゃんこ(あっちこっち)を向いている(ここで早くもコーヒーブレイク。子供の頃、家族みんなでルーベンスの画集を見ていて、母が「マサシはギリシャ神話を読んでるからこの絵が好きだそうだ」と言って無邪気に開いたその絵が裸の女性であふれていて、父はバツが悪い顔をして一言も発しなかった。コーヒーブレイクおしまい)。バロック音楽にも「いびつ」という言葉がぴったり。見事なハーモニーが曲を支配したルネサンス期の音楽がワールドカップで試合終了後にきちんと整理整頓された日本選手のロッカールームなら、バロック音楽は、校舎内をバイクで疾走するかの如し。例えば、モンテヴェルディの「オルフェオ」の冒頭、

トランペットの派手派手なこと!(Clarinoと書かれたパートがトランペットである。クラリネットの語源がトランペットであることが現れている)ルネサンス期には、こんなのはなかった。この冒頭のトランペットがオルフェオの開幕を告げるごとく、モンテヴェルディがバロック音楽の扉を開けたのである。

さて、バロック期に続くのが、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの古典派(ウィーン古典派)なのだが、私が大いに疑問なのはこの「古典派」という命名。「古典」とは「古い」ことであるが、古典派はちっとも古くない。その前に某大なバロック音楽とルネサンス音楽の世界がある。なのになぜ「古典派」と呼んだか。おそらく、犯人はロマン派あたりの人。古典派が自分たちより前で、かつ、それより前にどれほど絢爛豪華な古楽の世界が花開いていたかを知らなかったので、それで「古典派」と名付けたのではないか。いや、なかには「古典派」はやめて「ウィーン楽派」にしたらどうか、と提案した人もいたそうだが、そうすると、近代の「ウィーン楽派」とかぶるので、その案はボツになったそうだ。

遠い昔に、現代とは全然異なる素晴らしい世界が広がっていた、と言えば、スターウォーズがまさにそうである。冒頭、沈黙の中にスクリーンに現れる「A long time ago……」。え?スペースモノなのに未来じゃなくて昔なの?と思った矢先に、レイア姫が乗った宇宙船を追う巨大な帝国の宇宙戦艦(スターデストロイヤー)がスクリーンを被う。第1作の冒頭である。ジョン・ウィリアムズの音楽と相まって、完全に「つかみはOK」。この瞬間に、観客達のその後半世紀にわたる「スターウォーズとともにある人生」が決定づけられたのである。

因んだ話その1。日本昔話は「むかしむかし」で始まる。同様に、ドイツのおとぎ話は「Es war einmal」で始まる。

その2。スペースモノは、スターウォーズ以外は未来の話と相場が決まっている。「スタートレック」もそうである。「2001年宇宙の旅」だって製作当時は未来の話だった。その後時代が追いついた(木星への有人飛行は実現してないから科学技術は追いつかなかったが)。それを言うなら「謎の円盤UFO」は1980年が舞台で、今を基準とすれば「昔昔」の物語だが放送は1970年だったから、一応未来の話であった。