鈍想愚感

何にでも興味を持つ一介の市井人。40年間をサラリーマンとして過ごしてきた経験を元に身の回りの出来事を勝手気ままに切る

家族の幸せを考えさせてくれたアンドロイドが次から次へと登場した演劇「プライムたちの夜」

2017-11-11 | Weblog

 11日は東京・初台の新国立劇場で、浅丘ルリ子主演の演劇「プライムたちの夜」を観賞した。浅丘ルリ子が新国立劇場の舞台に出演するのは初めてのこととあってか、会場は超満員で、なかにはパイプ椅子の特設座席で観賞する人もいたほどで、米国の新進作家、ジョーダン・ハリスン原作の難しい演劇を静かに見つめていた。時代は西暦2065年の近未来で、亡くなった人がアンドロイドとして登場し、かつての家族と交流するという設定で、どこまでが虚構か見極めが難しいセリフ回しに四苦八苦させられたが、観終わって考えさせられる演劇であったのは事実だった。

 「プライムたちの夜」は亡くなった夫のウオルターが30代だった頃のアンドロイドとして登場し、浅丘ルリ子扮するマージョリーと思い出話に花を咲かせるシーンから始まる。話が細部にわたると食い違いが出てきて、戸惑うマージョリーを絶妙な間で表現する。そこへ外出から帰ってきた娘のテスとその夫のジョンがやってきて、あれこれマージョリーの世話を焼くが、時として正体をなくすようなことがあり、どう接していいのか、迷うような場面もみられる。飼っていた犬の話や、テスの弟のデミアンが自殺してしまった話になるとそれぞれの思いが交錯し、マージョリーが取り乱すようなことも出てくる。

 第2幕となって、マージョリーが舞台の中央のソファに座り、娘のテスと昔ばなしを始めると、マージョリーの声の調子がまるでアンドロイドのような調子となっていて、マージョリーもいまやプライムの仲間入りしたことが明らかとなる。そして、そのマージョリーの世話をしていた娘のテスがある日、突然プライムの仲間となってしまう。ジョンによると、かねて行きたいといっていたマダガスカルへ2人で行った際に、テントのなかで3日間寝て暮らし、ある朝、テスがいなくなっていて、探し回ったら、木にぶら下がって死んでいた、という。そこで、ジョンはテスが言っていたことが正しかったことを思い知り、涙声で「テス、君は正しかった」と絶叫する。

 いまや家族4人のうち3人がアンドロイドとなり、マージョリーとウオルター、それにテスの3人のアンドロイドが食卓に座り、楽しかったかつての日々のことを語り合うところで幕となる。家族の幸せとは一体どんなところにあるのだろうか、を考えさせる一幕ともいえる終わり方だった。

 プライムたちの夜というタイトルの”たち”というのが3人ともなるという意味を持っていたことが幕を閉じてからわかった。浅丘ルリ子が年に似合わない大きな声を出したり、機械的な発声をしたりして熱演ぶりを見せていたのが感動的だった。普通、演劇では大きな事件や出来事があって、それを中心に物語が展開していくことが多いのに、この「プライムたちの夜」は一貫して家族の思い出話を綴ることに終始していて、聞いていて堪えがたいような感じもあった。それでもアンドロイドが次から次へと登場することで話を進めていて、その点が斬新といえば斬新だった。

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